えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『新版 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』を読みました

新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか (小学館新書)

2017年57冊目の読了は、『新版 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(福岡伸一/小学館新書 初版2017年6月5日)です。書店で目にして手に取りました。本書は、2009年に刊行された『動的平衡』を加筆して、新書化したものです。

本書は、脳のしくみ、食べることの意味、ダイエット、安全な食品、病原体との戦いといった身近なテーマから生命科学をわかりやすく説き起こしたものです。自分にはちょっと難しい話もありましたが、興味深く読むことができました。単行本が12万部を超えるベストセラーになった理由がよくわかります。
また、科学的な内容でありながら、著者独特な表現に出会うことも本書の魅力です。「私たちの身体は分子的な実体としては、数か月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、いっとき、淀みとしての私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。」といったフレーズは、哲学書のような趣があります。

それにしても、動物や植物が生きていくためのしくみは不思議なほどよくできています。想像できないほどの時間をかけて進化してきた結果なのでしょうが、神秘的で、自然の摂理のようなものがあると思わざるを得ません。それほど深遠なものに、経済的利益の追求といった目的だけで、逆らったり手を加えたりしたら、あとで強烈なしっぺ返しを食らいそうです。

読後感(よかった)

『久保田純米大吟醸』の口開けをしました

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6月に買っておいた『久保田純米大吟醸』の口開けをしました。久保田は新潟の名酒ですが、これは新商品で6月と10月の限定発売だそうです。いつものように東小金井の佐藤商店で買い求めました。

淡麗辛口が売りのこれまでの久保田とは少し違って、このお酒は大吟醸ならではの華やかな香りがあります。のど越しもよく、気をつけていないとどんどん飲んでしまいそうです。

今日のように暑いとビールが欲しくなりますが、冷酒もまた格別です。

『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』を読みました

小倉昌男 祈りと経営?ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの?

2017年56冊目の読了は、『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』(森 健/小学館 初版2016年1月30日)です。5月に読んだ『「考える人」は本を読む』(河野通和)で紹介されていて、ぜひ読んでみたいと思い手に取りました。本書は第22回小学館ノンフィクション大賞受賞作品。賞の歴史上初めて選考委員全員が満点をつけたそうです。

本書については、すでに多くの書評などで取り上げられていて、今さら何か言うべきこともないかもしれません。
経営者として、また人間的にも評価が高い小倉昌男氏ですが、著者は、小倉氏について自身どうしてもわからないこと-「退任後、なぜ私財を投じて福祉の世界へ入ったのか」、「外部から見た印象と小倉氏自身の自己イメージの違いはなぜか」、「なぜ、アメリカで最期を迎えたのか」-を明らかにするため、小倉氏の関係者や家族へ取材を進めていきます。
すると次第に新しい事実がわかってきて、やり手の事業家の姿からは想像できない、私生活で苦悩する小倉氏が現れてくるというストーリーですが、その展開はサスペンスのような面白さがあります。また、普通なら他人に知られたくないようなことを、小倉氏の長男だけでなく、この物語のキーパーソンである長女が包み隠さず話していて、読んでいて驚きを禁じ得ませんでした。

本書を読んでいるときに、5月に読んだ『歌に私は泣くだろう』の著者永田和弘氏のことが思い浮かんできました。永田氏の妻、河本裕子氏はガンの宣告を受けたあと、薬のせいで精神に変調をきたして、家族はその言動に苦しめられることになるのですが、永田氏自身も心が不安定となり、自ら死ぬことを考えるようになるほど追いつめられてしまいます。
恐らく、小倉氏も妻と長女の関係や長女の言動に心を痛め、何とかしなくてはという気持ちでいっぱいだったでしょう。しかし本書から浮かび上がるのは、自分の動揺する感情を押しこめ、我慢しながらも家族を温かく見つめる物静かな小倉氏の姿であり、そこに小倉氏の人間としての奥深さのようなものを感じます。

小倉氏の人生を言い表すものとして《冬草や黙々たりし父の愛》という俳句が本書で紹介されていますが、小倉氏は、家族だけでなく誰に対しても父のように静かに尽くしたしそうです。小倉氏のような域にはとても達することはできませんが、それでも、自分のことだけを考えるのではなく、周囲の人の心情に少しでも寄り添っていくことができればと思います。

読後感(とてもよかった)