えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『池田学展 The Pen-凝縮の宇宙-』へ行ってきました

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日本橋髙島屋で開催している『池田学展 The Pen-凝縮の宇宙-』へ行ってきました。新聞でこの展覧会の記事を読み、池田さんのことを初めて知ったのですが、一緒に掲載されていた作品を見て「これは実物を見てみたい」ということに。

池田さんは、ペンを用いた独自の細密技法による作品を発表している画家で、国内外で高く評価されているそうです。会場では、これまで池田さんが制作してきたほぼ全ての作品約120点が展示され、また子供のときに描いた絵や朝日新聞に掲載されたオウム真理教事件、秋葉原事件の法廷画も紹介されています。

初めて池田さんの作品を見て、まず思ったのは「これは本当にペンだけで描いたのか」ということ。どの作品もその緻密さにはとにかく驚きます。なかでも、『興亡史』『予兆』『Victim』『誕生』といった作品は、そのスケール感に圧倒されるだけでなく、作品全体の世界感とそのなかで一つ一つ細かく描かれている世界が融合し、魅了させられました。見ていると次々に新しい発見があり、見飽きることがありません。

順路の最後に、縦3メートル×横4メートルの大作『誕生』が展示されています。2011年の東日本大震災がもたらした破壊とそこからの再生をテーマに、3年を費やして制作されたものだそうですが、大きさもさることながら、描かれている世界に心が打たれました。(この作品だけは写真撮影ができますが、開場後真っ先にこの前に立たない限り、人が入らないようにして全部を撮るのは難しいかもしれません)

とにかく印象に残る個展で、見応えがありました。一見の価値は十分あると思います。展覧会で図録などを買うことはあまりないのですが、今回は池田さんの作品集を買い求めて会場を後にしました。

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『運慶展』に行って来ました

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上野の東京国立博物館で始まった『運慶展』に行って来ました。平日だったせいか入場まで並ぶということはありませんでしたが、話題の展覧会ということで会場内は結構混雑していました。

本展では、日本で最も著名な仏師、運慶の造った仏像22体のほか、父・康慶、息子の湛慶、康弁の作品を含め全部で70体ほどの作品が展示されています。ほとんどが国宝か重要文化財で、史上最大の運慶展という看板に偽りはありません。

会場では、ガラスケースに入れられ展示されているものの方が少なく、多くの作品をそのまま、しかも360度の方向から鑑賞できるよう展示しています。お寺などでちょっと離れたところから鑑賞するのと違い、重厚で圧倒的な存在感がある仏像をすぐ目の前で見ることができて、とにかく素晴らしいの一言に尽きます。じっと見ていると、仏像たちが今にも動きだしそう感じがしてきました。

美術にはまったく詳しくありませんが、数々の見事な作品を十分堪能しました。

『教養としての社会保障』を読みました

教養としての社会保障

2017年78冊目の読了は、『教養としての社会保障』(香取照幸/東洋経済新報社 初版2017年6月1日)です。知人に勧められて7月に買い求めたものの、なかなか関心が向かず、読むのがついつい後回しになってしまいました。

本書は、元厚生労働省の官僚で内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた著者が、日本の社会保障制度の全体像および社会保障と政治・経済の関わりについて3部構成で解説したものです。
第Ⅰ部「社会保障とは何か」では、社会保障の系譜・理念、社会保障の基本哲学、日本の社会保障の特徴と歴史、そして社会・経済・財政との関わりから、社会保障の基本が説明されています。第Ⅱ部「マクロから見た社会保障」では、人口減少と少子高齢化で“安心”が揺らぐ日本社会の姿や産業としての社会保障について見て行き、そのうえで国家財政との関係から日本が直面する課題とその解決の道筋を考えます。そして第Ⅲ部「日本再生のために社会保障ができること」では、社会を覆っている不安を払拭し、安心社会を実現するために行うべき改革の方向性が示され、具体的な提言がなされています。

本書を買った後、すぐに読もうという気にならなかった理由は、社会保障というと「よくわからない」「関係ない」という思い込みがあり、そもそも理解しようなどと思ったことは一度もなかったことにあります。しかし、読み始めるとそんな先入観はすぐに払拭されることに。書名を「教科書」としているだけに、平易な言葉で、たくさんの図表を使いながら、明快かつ説得力ある論旨で話が展開されているため、ひきこまれるように読んでしまいました。

「社会保障は社会の安定を支えるだけでなく、一人ひとりの自己実現を支え、それを通じて社会の活力や経済の発展を支えている」「社会保障の目的は、落ちこぼれた人間をつくらず、誰もが常にプレーヤーとして社会の中に存在している社会をつくること、自分の尊厳を守り希望を持って自立して生きていける社会をつくることにある」といった話は、まさに目から鱗でした。
また日本の「皆保険」制度は世界に類がなく奇跡的なものであり、これが社会の安定と経済の発展を支えていること、社会保障は重要な産業であること、年金が地域経済を支えていることなど、本書で初めて知ることは実に多くありました。これまで会社から保険料改定の通知があるたび、また負担が増えるとブツブツ言っていましたが、アメリカの医療制度のことを考えるとそんな不満は言えなくなります。

少子・高齢化、人口減少が続くなか、経済を発展させ、安心・安全な社会をつくり、また持続可能な社会保障制度を整備するというのは至難の業です。しかし、自分たちだけでなく、次の世代のためにも避けて通るわけにはいきません。その実現には、政治家や官僚に大きな責任があるのでしょうが、私たち一人ひとりも「高い・安い」「もらえる・もらえない」といったことだけに関心を払うのではなく、社会全体が今大きな転換期にあることを自覚し、よく考えていかなければならない問題だと、本書を読んで強く思いました。

今日、安部首相が衆議院の解散を表明し、消費増税分の使途を社会保障だけでなく教育にも広げ、高齢者中心の社会保障から全世代型の社会保障への転換を目指すと述べていました。財政の健全化が遅れるという批判もあるようですが、著者の考えをぜひ聞きたいものです。

読後感(とてもよかった)