えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『ギャグ・マンガのヒミツなのだ!』を読みました

ギャグ・マンガのヒミツなのだ! (河出文庫)

2018年13冊目の読了は、『ギャグ・マンガのヒミツなのだ!』(赤塚不二夫/河出文庫 初版2018年1月20日)。書評サイト『HONZ』で本書を見て、懐かしさもあって手に取りました。

本書は、1988年に河出書房新社から出版された『ラディカル・ギャグ・セッション 挑発する笑いの構造』を改題・改訂して文庫化したものです。
日本を代表するギャク漫画家で「ギャク漫画の王様」とまで言われた赤塚不二夫さんが、自身の漫画家としての歩みを回想しつつ、人生観や漫画論を語り、他の漫画家・作品に対する評価、社会批評なども繰り広げています。

赤塚さんといえば、「おそ松くん」「天才バカボン」「もーれつア太郎」がヒット作として有名ですが、小学生の頃、「少年サンデー」と「少年マガジン」での連載をまさに読んでいました。それだけに、有名な「トキワ荘」時代のエピソードやヒット作の誕生秘話、また漫画の制作方法など、どの話もとても興味深く面白く読んだのですが、若い頃に見たたくさんの映画が作品のベースになっていることや、文学作品からも影響を受けていることは、印象的でした。

ギャグ漫画というと何か軽薄なイメージもありますが、赤塚さんの話から、人間の心や世の中の動きに対する鋭い感覚や深い洞察がないと、読者をひきつけるギャク漫画など描けないことに気づかされます。おそらく、そういったものに裏打ちされているからこそ、赤塚さんが亡くなられてからも、個性的なキャラクターたちが多くの人に愛され続けるのでしょう。

後年の赤塚さんは、漫画家というよりも、面白く破天荒なオジサンといったイメージが強くなり、それとともに赤塚さんのマンガを読むこともなくなっていったのですが、本書を読んで、数々のヒット作をもう一度読みたくなりました。

読後感(面白かった)

『観察の練習』を読みました

観察の練習

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2018年12冊目の読了は、『観察の練習』(菅俊一/NUMABOOKS 初版2017年12月1日)。書店で目にして買い求めました。内容に関心を奪われていたため、うかつにも、読み始めてから菅さんが『ヘンテコノミクス』(マガジンハウス)の原作者であることに気がついたのですが、読み終えて、『ヘンテコノミクス』で菅さんの果たした役割が少し理解できた気がしました。

菅さんは、「日常の中の小さな違和感」に、私たちを驚かせたりワクワクさせたりするアイデアを生むヒントが隠れている、「観察」とはその日常にある違和感に気づくことだとして、本書では、菅さんに捉えられた違和感を写真と文章で示して「観察」の具体例を紹介し、そして読者にも日常を「観察」することを提案しています。

本書には、56の観察例が掲載されています。「芝生のはげた痕跡」「ゴミの捨て方」「コンビニ弁当のフライにかけられたソース」「地図アプリの最短ルート」「自販機のキャッチコピー」「駅の看板」「商店のシャッター」「ハンバーガーの包み紙」「店員さんの“いらっしゃいませ”」「赤青鉛筆」「通風口にぶらさがっている紐」「マンホールのフタ」など、どれもありふれたものばかりで、普段それを見て何かを気にすることはありません。

しかし菅さんは、そこに人間の行動原理、先入観の支配、さまざまな創意工夫、概念(形のないもの)の現実化、多様なコミュニケーションなどを発見します。その観察力、ものの見方の奥深さには驚くばかりでしたが、見過ごしていたものに気づくことの面白さが伝わってきて、自分も「観察をしてみよう」という気にさせられました。

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(P15「無意識に取る最短経路」 写真 菅俊一)

本書が面白いのは内容だけではありません。装幀の表紙と背にあるタイトルは、見る角度、距離によっては白い線と点しか現れず(ネット書店の画像と自分で撮った写真を対比しました)、また、文字が回転していたり、流れていたり、ひっくり返っていたりするページなどもあって、読者を刺激します。

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(左P25「箱の中の記録」より 右P201「理想の風の姿を見る」より)

本書を読み終えた後、「観察」にチャレンジしてみましたが、実際は簡単ではありません。菅さんのような観察力を身に着けるには、相当“練習”が必要なのでしょう。しかし何も発見できなくても、今までと違った目で日常の世界を見つめること自体、新鮮で楽しいものだと気がついたことは収穫でした.

これから自分なりの「観察」を意識してみたいと思います。

読後感(よかった)

『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』

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六本木ヒルズの森美術館で開催されている『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』へ行って来ました。

新聞で本展のことを知り、面白そうなので是非行ってみたいと思っていたのですが、平日に休みが取れたので早速出かけました。平日の午前中なので、会場は学生さんらしきグループ・カップルや初老の方々が大半。私のようなおじさんは数えるほどでした。

レアンドロ・エルリッヒはアルゼンチン出身の国際的な現代アーティスト。視覚的な錯覚や効果音を使って、鑑賞者の常識を揺さぶるような作品を数多く発表しているそうですが、本展では40点を超える作品が展示されています。

観客が参加することで完成する作品はどれも驚きの連続。不思議で楽しい展覧会でしたが、私たちがいかに常識や既成概念にとらわれているか、そして「見えていることだけが現実ではない」ということがよくわかりました。

本展のチケットで展望台にも行けるので、あいにく曇り空でしたが、東京の冬のパノラマを眺め、帰宅の途に。心に残る一日になりました。

<展示作品の一部>

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[レアンドロ・エルリッヒ『反射する港』]
ボートが浮かんでいるようですが、水面に映っているように見える反射イメージはボートと同じ素材の立体物です。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『地下鉄』]

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『教室』]
部屋には入ると向こうの教室に授業を受けている自分の姿が見えます。右は居合わせた学生さんのグループです。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『隣人』]

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『眺め』]
隣のマンションの住人を覗き見ているようです。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『部屋(監視Ⅰ)』]

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『失われた庭』]
庭を覗くと、向かいの窓に庭を覗く自分の姿が見えます。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『エレベーター』]

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『試着室』]
試着室がひたすら続いているようです。映っているカメラは私のものです。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『黄金の額』]
合わせ鏡に映っているようですが、写真です。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『美容院』]
座った椅子で、鏡に姿が映ったり映らなかったりします。

 

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[レアンドロ・エルリッヒ『建物』]
建物にぶらさがっているようですが、実際は鏡に映し出されているものです。大人気でした。

 

<展望台のパノラマ>

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(東京タワーをのぞむ)

 

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(青山霊園から新宿方面をのぞむ)

<展覧会カタログ>

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