えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『拝啓、本が売れません』を読みました

拝啓、本が売れません

2018年27冊目の読了は、『拝啓、本が売れません』(額賀澪/KKベストセラーズ 初版2018年3月30日)。新聞広告で本書を知ったのですが、出版業界にいる者としては気になるタイトルで、早速買い求めました。

著者の額賀さんは1990年生まれ。2015年にデビューした若手作家ですが、すでに「松本清張賞」や「小学館文庫小説賞」を受賞されています。もっとも、私自身は小説を読むことは少なく、額賀さんには大変申し訳ないのですが、本書を手にするまで存じ上げませんでした。

本書は、額賀さんがどうしたら自分の本が売れるのか、その方法を探し出すために、キーパーソンと思われる人物を本書の編集者(ワタナベ氏)とともに訪ね、取材したときの様子を綴ったルポルタージュです。

作家がサイン会やトークイベントなどを行うのはよくあることです。しかし作家自身が “自分の本を売るための方法”を探し求めるというのは聞いたことがなく、しかもその様子を本にするというのも異色です。

額賀さんがなぜそんな行動を思い立ったのか、その理由は本書にも書かれていますが、出版不況で本が売れない、書店がどんどん消滅する、その書店で自分の作品を置いてくれる棚が縮小する。そんな視界不良のなかで、「書くこと」を仕事に選んだ額賀さんの漠然とした不安とそれを何とかはね除けたいという思いは、痛いほどよくわかります。ちなみに、KKベストセラーズ社さんから本書が出版されたいきさつは、額賀さんの公式サイトで、知ることができました。

額賀さんが訪ねたのは、辣腕ライトノベル編集者だった三木一馬さん、業界では有名な盛岡の「さわや書店」の松本大介さん、Webコンサルタントの大廣直也さん、映像プロデューサーの浅野由香さん、そしてブックカバーに革命を起こしたといわれるブックデザイナーの川谷康久さん。皆さん親身になってアドバイスし、エールを送っているのが印象的です。

「送り届けるべきところに送り届けなければ、何万部刷ろうと意味がない。」(三木さん)、「作り手が面白い本を妥協することなく作ること。それを送り出す書店員は目利きであれ。それが、本が売れるために必要なこと。」(松本さん)、「《ものが売れる》っていうのは、《いいものを誰かに薦めること》で起こる現象。」「結局、自分が面白いと思ったものを、丁寧に伝えていく努力をするしかない。」(浅野さん)、「固定観念が強すぎると、何でも予定調和なものになる。」「突飛なことをするんじゃなくて、『何が売れるのか』と問いかけ続けることが大事。」(川谷さん)
額賀さんにかけられた言葉のはずなのに、自分の心にも強く響いてきました。

「出版不況」は長引きそうです。しかし、著者は読者から評価され、著者自身も満足する作品を生み出す。書店はそれを読者にしっかり届ける工夫を続ける。出版社は著者、書店と二人三脚でその実現を手助けする。そんな当たり前のことを当たり前のようにやっていけば、川谷さんが言う「みんなが楽しく仕事をしてご飯を食べていける世界」は実現不可能ではないと思えてきます。

額田さんはアドバイスを受けて、自分の気持ちを確かめ、やるべきことを見出しました。本書に文藝春秋社から発刊する予定の新作の一部を掲載したことや、川谷さんが本書のカバーデザインを行ったことも、その一端といえるでしょう。
私自身も、本書を読んで頭上の暗雲が少し晴れたような気分になりました。

それにしても、本を読む人、本屋さんに行く人がもっと増えてほしいと、心から思っています。

読後感(よかった)

小金井公園の里桜を楽しみました

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ソメイヨシノは散ってしまいましたが、小金井公園は里桜がまだまだ楽しめます。

昨日ジョギングしているときに目をひかれたので、今日は朝から出かけて、散歩しながら桜を撮りました。花の色もきれいですが、木々の緑が鮮やかさを増していて、2週間前とはまた違った印象を受けます。

今年は天候にも恵まれてあちこちの桜を堪能し、写真もたくさん撮りました。小金井公園はこれから新緑の季節を迎えます。

 

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(ドックラン近く)

 

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(野球場近く)

 

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(桜の園)

 

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(江戸東京たてもの園 小出邸)

 

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(江戸東京たてもの園 デ・ラランデ邸)

 

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(江戸東京たてもの園 千人同心組頭の家・吉野屋近く)

『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』を読みました

英国公文書の世界史 - 一次資料の宝石箱 (中公新書ラクレ)

2018年26冊目の読了は、『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(小林恭子/中公新書ラクレ 初版2018年3月10日)。成毛眞さんの“つぶやき”で本書のことを知り、買い求めました。

本書は、在英のジャーナリストである小林さんが、ご自身の調べもののために足しげく通う「英国国立公文書館」に保管されている公文書を取り上げて、それにまつわるエピソードを綴ったものです。

この公文書館には、11世紀以降のイギリス国民のために作成された文書が1100万点以上保管されていて、「見たい」といえばいつでも見られるようにしてあるそうです。歴史の古さやその量はもちろんですが、保管している「文書」は紙の書類だけではなく、証印、地図、布見本、写真、絵画、手紙、メモ、落書き、髪の毛、電報、メール、さらにはネズミのミイラまであるそうで、驚いてしまいます。

本書で小林さんが紹介している文書は、最古の公文書である「ドゥームズデイ・ブック」と呼ばれる土地台帳、有名な「マグナ・カルタ」、ヘンリー8世の「結婚無効の通知書」、「シェイクスピアの遺言書」、世界初の郵便切手「ペニー・ブラック」、「切り裂きジャックが書いた手紙」タイタニック号の「SOSメッセージ」、英仏の極秘協定「サイクス=ピコ協定の地図」、エドワード8世の「退位証書」、チャーチルが書いた「欧州分割案のメモ」など28点。その中には、夏目漱石の「下宿記録」、広島・長崎の「原爆投下の報告書」、駐日英外交官が書いた「ビートルズ来日の報告書」など日本に関するものも5点含まれています。

写真ですが文書の実物を見ることができて、それだけでも興味深かったのですが、文書に関係して、わかりやすく解き明かされる歴史的な事実は実に面白く、読んでいて興味は尽きませんでした。

なかでも、隔世の感があるビートルズ来日当時の世相、遺言書に見られるシェイクスピアの人間味、タイタニック号のSOSから伝わってくる緊迫感、サイクス=ピコ協定によって中東に引かれた分断線に見られる西洋列強の傲慢さ、そして第二次大戦後のバルカン半島や中欧諸国の運命をチャーチルとスターリンの二人だけで、しかも一片のメモとそこに書かれているパーセンテージだけで決めてしまうという凄まじさ。これらは強く印象に残りました。

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(P94 シェイクスピアの遺言書)

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(P172 タイタニックのメッセージ)

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(P208 チャーチルの手書きメモ)

本書には、世界の歴史を別の角度から眺めているような新鮮さと面白さがあります。そして、教科書に書かれていることだけが歴史ではないことを改めて思いました。

読後感(面白かった)