えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『日本の醜さについて 都市とエゴイズム』を読みました

日本の醜さについて 都市とエゴイズム (幻冬舎新書)

2018年47冊目の読了は、『日本の醜さについて 都市とエゴイズム』(井上章一/幻冬舎新書 初版2018年5月30日)。書店で目にして、手に取りました。

本書は、国際日本文化研究センターの教授である井上氏が、自身の専門である建築や都市景観を切り口に、日本と日本人について語ったものです。井上氏は、専門分野だけでなく日本文化について幅広く研究をされているそうですが、著書の『京都ぎらい』(朝日新書)がベストセラーとなって話題になりました。

日本人といえば、「自己主張が苦手」、「調和を重んじる(悪くいえば主体性がない)」、「集団的主義的」といったことが言われますが、井上氏は本書で、日本の街並みや日本人の建築に対する考え方を示しながら、そんな既存の日本人論に真っ向から異をとなえ、日本人を考察しています。

-集団主義的といいながら、都市でも住宅地でもみんなばらばらの建物があふれかえっていて、個人主義が幅をきかせている。(決して肯定的には言っていません)

-城郭の管理ぶりを比べる限り、日本は封建制から脱していて、近代化の達成度合いは、日本の方が高い。にもかかわらず、典型的な近代化をなしとげたのは、西欧だと言われ続けてきた。

-ケンタッキーフライドチキンのカーネル人形、不二家のペコちゃん人形、薬局前のカエル・象の人形、大阪道頓堀のくいだおれ太郎やカニ・フグ・タコなどの模型など、日本にはチャイルディッシュなたたずまいをよろこぶ何かがある。(ちなみにカーネル人形は日本発祥だそうです)

-京都は景観の保全に熱心と思われているが、実は旧来の街並みを自分たちの手で崩した。それは「木の文化」といったものでなく、経済的な旨みがあったから。

-建築が「利益のためだけにつくられる」自由。ヨーロッパではありえないそんな自由を日本は勝ちとった。(もちろん喜んでいるのではありません)日本の都市はブルジョアの利益が景観を左右する場になっている。

作家や人文・社会科学系の学者が日本人を語るのは不思議でもなんでもありません。しかし「建築」という、これまでにない視点からの井上氏の指摘は新鮮で、しかも鋭く、なるほどと思うことが多くありました。

雑然とした街並みは自由で、刺激的で、エネルギッシュともいえます。人によってはそれが魅力的に映ることもあるでしょうが、個人的にはヨーロッパで見られる落ち着いた古い街並みに心がひかれます。ただ残念ながら、日本では観光地化されていないそんな場所を探すのは難しそうです。

日本人は歴史や伝統を重んずるとよく言われます。しかし古い建築物に対する無関心・無理解は少し悲しいものがありました。

読後感(面白かった)

『細菌が人をつくる』を読みました

細菌が人をつくる (TEDブックス)

今年46冊目の読了は、『細菌が人をつくる』(著 ロブ・ナイト、ブレンダン・ビューラー、訳 山田 拓司、東京工業大学山田研究室/朝日出版社 初版2018年5月30日)。書店で目にして、手に取りました。TEDブックスシリーズの一冊です。

本書によると、私たちの体は10兆個の細胞からできていますが、体の内外には100兆個の細菌の細胞が存在しているのだそうです。
本書は、ヒトの肌、鼻や口、胃や腸に住んでいるこの常在細菌について、様々な研究データやエピソードを紹介しながら、その働きや病気との関連性を説明したものです。

常在細菌は、私たちの生命活動に強く影響している。また、肥満やアレルギー、ぜんそくといった身体的な病気だけでなく、うつ病や自閉症など精神疾患とも関係している。初めて知ったことばかりでしたが、内容は決して難しくなく、楽しいイラストもあって興味をかき立てられました。

一番驚いたのは、帝王切開で生まれてきた著者の子どもの体に、奥さんの産道から採取した細菌群集を綿棒でこすりつけた話。どれほどの効果があるのかわからないと著者は言っていますが、専門家がそこまでするのは、母親の産道を通るときにヒトが初めてもらう細菌の重要性を感じているからでしょう。

一方、「自分自身をあまりきれいに保ちすぎると免疫異常が起こり得る。」、「土を介して良い細菌にさらされたり、健康かつ多様な人々と触れ合ったりすることが大切。」しかし、「現代の子供は、土や葉の表面、家畜や野生動物といった、無害なところに由来するさまざまな細菌から隔離されている。」といった話も気になりました。

私が子供の頃、衛生環境が今ほど良くないのは当たり前。マンションのような機密性の高い住宅はまだ少なく、もちろんテレビゲームもなく、子供は外で遊ぶのが日課でした。その代り、食物アレルギーや喘息に苦しむ子供は数少なかった気がします。花粉症なんてものもありませんでした。

衛生環境が改善され、住環境もどんどん利便性を増していますが、もしかしたら、良かれと思ってやっていることが、私たちの体に思わぬ結果をもたらしているのかもしれません。

現在日本では、抗菌をうたう商品、抗菌と表示された設備や器具を至る所で目にします。もちろん、体に害を及ぼす病原菌を退治するとか、身の回りを清潔に保つというのは大事なことに違いありません。

しかし、なんでもかんでも「抗菌」というのは果たして本当にいいことなのか、日本人は神経質過ぎないか、本書を読んで考えてしまいました。

読後感(面白かった)

「樫本大進&キリル・ゲルシュタイン」デュオコンサート

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昨晩、ずっと楽しみにしていた樫本大進さんとキリル・ゲルシュタインさんのデュオコンサートに行ってきました。

会場は、東京オペラシティコンサートホール。演目は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第2番、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタK.378、R.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調Op.18の4曲。アンコール曲は、シューマンとブラームスの作品でした。

樫本さんはベルリン・フィルのコンサートマスター。キリル・ゲルシュタインさんも世界的なピアニスト。一流の演奏はやはり素晴らしく、聞き惚れてしまいます。樫本さんが奏でる澄んだ高音は、今も耳から離れません。

個人的には、ブラームスのヴァイオリン・ソナタがとても良かったのですが、ヴァイオリンとピアノが作り出す音の世界にどんどん引き込まれて、まさに至福の時間となりました。