えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』を読みました。

パワハラ問題―アウトの基準から対策まで― (新潮新書)

2020年39冊目の読書レポートは『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(著 井口 博/新潮新書/初版2020年10月20日)。書店で目にして手に取りました。

会社員時代、法務部門を担当していたときは、人権研修の講師も仰せつかっていました。

「ハラスメント」は人権問題にもなりますが、CSR(企業の社会的責任)の側面もあるので、力を入れて話をしたことを覚えています。

本書は、弁護士で、ハラスメント問題に詳しい著者が「パワハラ防止法」が6月に施行されたことを踏まえ、法律のポイントとパワハラの対応策を解説したもの。

教科書的な説明ではなく、具体的なケースを数多く交えながら、経営者や管理職が心得ておくべき事柄がコンパクトにまとめられています。

アウトとセーフの具体例、相談を受けたときの三大禁句、部下に言ってよい言葉・悪い言葉、グレーゾーンの判断基準、部下の叱り方5原則、モンスター部下への対応など、内容はわかりやすく実践的。

また、簡単なケーススタディと、巻末には最近の判例も掲載されているので、パワハラの予防と対応には格好の一冊です。

ところで、私が会社員になってしばらくの間、パワハラなどという言葉は、影も形もありませんでした。

今の基準では“アウト”となるような上司たちの言動があっても、取り立てて問題だとも思わず、じっと“我慢”していた気がします。

それは、上司は親のような存在といった意識が、まだどこかにあったからかもしれません。

ところが、時代とともに職場の人間関係はドライになり、コミュニケーションも希薄になるばかり。

そんな職場環境の変化も、パワハラという問題を浮上させたひとつの要因でしょう。

パワハラなどあってはならないことですし、もちろん「昔は良かった」などと言うつもりはありません。

けれど、法律をつくるだけでいいのか、ついつい考えてしまいます。

『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか 人糞地理学ことはじめ』を読みました。

ウンコはどこから来て、どこへ行くのか ――人糞地理学ことはじめ (ちくま新書)

2020年38冊目の読書レポートは『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか 人糞地理学ことはじめ』(著 湯澤 規子/ちくま新書/初版2020年10月10日)。書店で目にして手に取りました。

数年前に、小学生向けの『うんこ漢字ドリル』が大ヒットし、話題になりました。そのネーミングにはびっくりしましたが、本書のタイトルも随分思い切った感じです。

本書は、法政大学人間環境学部教授で、地域経済学、地域産業史、人文地理学を専門とする著者が、身近な存在でありながら“汚物”と呼ばれるウンコについて、歴史的・社会的な観点から考察するもの。

ウンコの意味的解釈をしたうえで、中世から現代へと時代をたどりながら、糞尿の扱いの変遷とそれに伴う人々の意識の変化を、様々な資料をもとに明らかにし、そこから見える社会の様相について言及しています。

ちなみに「ウン」はいきばる声、「コ」は接尾語だそうです。

江戸時代に糞尿が「商品」として取引されていたことは知っていましたが、ウンコの歴史など考えたこともありません。

中世においては、畏怖・信仰の対象として、人々の精神世界と深く関係したものが、近世では「資源」として利用されるようになり、「宝物」に。

ところが近代になると、新しい肥料が生まれ、都市化が進むなかで、お金を生む「商品」から、お金を出して処理してもらう「廃棄物」へと変化。

それからは「汚物」として忌み嫌われ、排除されるものとなり、そして今では「忘却」される運命に。

たかがウンコ、されどウンコ。ウンコの歴史は思いのほか奥深く、ドラマのよう。著者ならではの視点にも感心させられました。

また、江戸時代、糞尿の値段にはランクがあったことや、糞尿を肥料にするためには、それなりの技術と工夫が必要であったこと。

バキュームカーが導入されたばかりの頃は、珍しい車を一目見ようと人だかりができたこと。

お尻を拭く素材は、世界中で様々なものが使われてきたこと…。

ウンコにまつわるエピソードはどれも面白かったのですが、印象に残ったのは、下水処理から生まれる汚泥の話。

東京では、1980年頃、汚泥を資源化して肥料として販売していたとのこと。
ただしその後、下水道に様々な物質が混入するようになったために、肥料としては使えなくなったのだそうです。

命の循環のなかで重要な役割を果たしていたのに、次第に見向きもされなくなり、とうとう土に還ることもできなくなったウンコ。

人間は、便利さや快適さを飽くなく追求してきましたが、その陰で、大事なものをたくさん消し去ってきたのかもしれません。

『獣道一直線!!!』を観ました。

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渋谷のPARCO劇場で上演中の『獣道一直線!!! 』(《ねずみの三銃士》第4回企画公演)を観ました。

「ねずみの三銃士」は、生瀬勝久、池田成志、古田新太さんによる演劇ユニット。宮藤官九郎さんの脚本と河原雅彦さんの演出で、これまで3回公演を行っています。

今回は、そこに池谷のぶえさんと、山本美月さんが加わり、宮藤官九郎さん自身も出演。これでつまらないはずはなく、どんな舞台になるのか心待ちにしていました。

本作品で描かれているのは、実際に起きた連続不審死事件をモチーフにしたもので、3人の独身男性と彼らを虜にしてきた魔性の女(池谷のぶえ、山本美月の入れ替わり)の殺人事件を巡る物語。

とあるオーディションにやってきた売れない役者3人(生瀬、池田、古田)が殺人事件を再現し、クドカン演じるドキュメンタリー作家がそれを追いかけ撮影していくという、ちょっと変わった設定で、話は進んでいきます。

いくつかのストーリーが重なりあい、人物が入れ替わるという複雑かつ巧妙な展開。

観る者の心を奪う、出演者たちのコミカルで、アクの強い演技。

新型コロナ、あおり運転、高齢者ドライバーといた今日的な話題や、思わず笑ってしまう下ネタ。

スマホやビデオの画面が舞台に写しだされる斬新な演出。

そして思いもよらぬラストシーン。

とにかく面白く、最初から最後まで一瞬たりとも目が離せませんでしたが、特に印象に残ったのは、池谷さんの演技。

笑い、驚き、圧倒されて、さすがと言うしかなく、これからますます気になる存在になりそうです。

ところで、ちょっと気になったのが、池谷さんが大将(店主)、山本さんが店員を演じた鮨屋の場面。

NHKのTV番組「LIFE!~人生に捧げるコント~」で、内村光良(ウッチャン)さんと星野源さんが繰り広げたコントが頭に浮かんできました。もしかしたらオマージュかもしれません。

期待に違わぬ大満足の舞台。ぜひ第5回をやってほしいものです。