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読んだ本と出来事あれこれ

『裁判の非情と人情』を読みました

裁判の非情と人情 (岩波新書)

2017年20冊目の読了は、『裁判の非情と人情』(原田國男/岩波新書 初版2017年2月21日)です。書店で目にとまり手に取ったのですが、本書は書下ろしではなく、岩波書店の『世界』に連載された40編のコラムをまとめたものです。

タイトルからすると、実際の裁判で繰り広げられる「非情と人情」の様子が紹介されているイメージを持ちますが、本書では、元東京高裁の判事であった著者が、裁判や裁判官にまつわる様々なエピソードや、日本の司法制度に対する思いなどを綴っています。

裁判や裁判官というと、私達にとっては遠い存在ですが、裁判での思いがけない出来事や裁判官の生活の一端などが紹介されていて、とても興味深いものがありました。また、裁判に対する著者自身の人間らしい苦悩や葛藤も包み隠さず語られていて、それも心に残りました。

本書で特に印象的だったのは、有罪・無罪が争われた事件で、著者が有罪を宣告した場合、著者は、判決が間違っているかもしれないからということで、被告に控訴してほしいと言っていたということです。そんなことを言う裁判官は普通は考えられず、ときに非難されたこともあったそうですが、本書を読むとなぜそんなことをしていたのか、著者の思いを知ることができます。

著者は、裁判官時代、有罪率99%以上の日本の刑事裁判において20件以上の無罪判決を言い渡したそうで、司法の世界では知られた存在だったようです。そんな人だから、日本の司法制度については、さぞかし批判的だろうと想像したのですが、著者は裁判官や職員に信頼を寄せていて裁判員制度にも期待しています。以前、『絶望の裁判所』といった本も出て話題となりましたが、絶望や批判するだけでは何も解決できないこと、また、司法関係者が地道に努力していけば、国民の意識も変わってくることを著者は言いたいのだと思います。

読後感(まずまず)