えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『折々のうた』を読みました

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

今年32冊目の読了は、『折々のうた』(大岡信/岩波新書 初版1980年3月21日)です。著者の大岡信さんは4月5日に86歳で亡くなられました。

「折々のうた」は、1979年1月から2007年3月まで朝日新聞朝刊の1面で毎日連載されていたコラムで、日本の詩歌を180字で解説したものです。途中休載しながらも6762回続いたそうです。
朝日新聞をずっと購読しているので、このコラムのことはもちろんよく知っていますが、連載中は特に意識もせず、読み流していました。大岡さんが亡くなられたことを知り改めて読んでみたくなり、本書を手に取ったのですが、本書の初版は1980年3月。それから版を重ね、買ったものは第50刷でした。もはや古典といってもいいのかもしれません。

本書では、連載1年目のコラムを「春のうた」「夏のうた」「秋のうた」「冬のうた」に分けて紹介しています。知らない詩歌が大半ですが、大岡さんの解説によって作者の心情を知り、時代の空気や風景が目の前に広がります。なかでも、病床、死別、戦争といった非日常生活の中で作られた作品は、作者の感性が研ぎ澄まされているせいか、心に残るものがあります。

本書を読んでいる途中、4月11日の朝日新聞朝刊(38面)に、大岡さんと親交があった谷川俊太郎さんの追悼の詩が掲載されました。

 「大岡信を送る 二〇一七年卯月

 本当はヒトの言葉で君を送りたくない
 砂浜に寄せては返す波音で
 風にそよぐ木々の葉音で
 君を送りたい

 君と文字に別れを告げて
 君はあっさりと意味を後にした
 朝露と腐葉土と星々と月の
 ヒトの言葉よりも豊かな無言

 今朝のこの青空の下で君を送ろう
 散り初める桜の花びらとともに
 褪せない少女の記憶とともに

 君を春の寝床に誘うものに
 その名を知らずに
 安んじて君を託そう 」 

大岡さんと谷川さんの親交は60年に及ぶそうです。盟友を失った悲しみはいかばかりかと思いますが、この詩は、悲嘆にくれることなく、桜の時期に新しい世界に旅立つ友人を、やさしい眼差しで静かに見送っているようです。おだやかな風景が心に広がっていきます。

読後感(よかった)