えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『歌に私は泣くだらう-妻・河野裕子 闘病の十年-』を読みました

歌に私は泣くだらう: 妻・河野裕子 闘病の十年 (新潮文庫)

今年45冊目の読了は、『歌に私は泣くだらう-妻・河野裕子 闘病の十年-』(永田和宏/新潮文庫 初版平成27年1月1日)です。先日読んだ『「超」実用的文章レトリック入門』(加藤明/朝日新書)で、本書が紹介されているのを見て、手に取りました。初出誌は新潮社の「波」ですが、平成24年7月に単行本として出版され、講談社エッセイ賞を受賞しています。出版されてからすでに5年が経っているので、ちょっと遅い読書かもしれません。

乳がんを宣告された妻、それを支える夫の姿を包み隠さず描いたこの作品は、発表当初から大きな反響を呼んで多くの人に評されています。恐らく本書の多くの読者がそうだと思いますが、私も最初から最後まで、夫と妻それぞれの苦悩や葛藤、家族や歌への思いに、心が揺さぶられることになりました。
特に物語の後半、がんの転移・再発がわかってからの夫妻の日々は胸に迫り、何度もページをめくる手が止まることに。いよいよ最期のときがせまり、家族一人ひとりに別れを告げる場面では、あふれる涙を抑えることはできませんでした。

夫は京都大学の教授、夫婦とも日本を代表する歌人、子供も歌をよむ、となると、何か住む世界が違うような感じがします。しかし、本書で描かれている家族の風景は、私たちと何ら変わるものではありません。同じように、というより私たち以上に-それは病と死という非日常的な状況にあったからだと思いますが-感情をぶつけあい、悩み、悲しみ、怒り、そして喜び笑う。生身の人間の姿が、二人への共感をより深いものにし、家族のあり方について、人生について静かに考えさせてくれます。

本書の内容とは離れますが、面と向かってはなかなか言えないことや、口にするのはためらわれることでも、歌にすればそれが表現できるというのが、とても羨ましく感じられました。自分が生きてきた証として、折々の心象を表現し残すようにしておけばよかったと、少し後悔しています。

読後感(とてもよかった)