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『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』を読みました

小倉昌男 祈りと経営?ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの?

今年56冊目の読了は、『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』(森 健/小学館 初版2016年1月30日)です。5月に読んだ『「考える人」は本を読む』(河野通和)で紹介されていて、ぜひ読んでみたいと思い手に取りました。本書は第22回小学館ノンフィクション大賞受賞作品。賞の歴史上初めて選考委員全員が満点をつけたそうです。

本書については、すでに多くの書評などで取り上げられていて、今さら何か言うべきこともないかもしれません。
経営者として、また人間的にも評価が高い小倉昌男氏ですが、著者は、小倉氏について自身どうしてもわからないこと-「退任後、なぜ私財を投じて福祉の世界へ入ったのか」、「外部から見た印象と小倉氏自身の自己イメージの違いはなぜか」、「なぜ、アメリカで最期を迎えたのか」-を明らかにするため、小倉氏の関係者や家族へ取材を進めていきます。
すると次第に新しい事実がわかってきて、やり手の事業家の姿からは想像できない、私生活で苦悩する小倉氏が現れてくるというストーリーですが、その展開はサスペンスのような面白さがあります。また、普通なら他人に知られたくないようなことを、小倉氏の長男だけでなく、この物語のキーパーソンである長女が包み隠さず話していて、読んでいて驚きを禁じ得ませんでした。

本書を読んでいるときに、5月に読んだ『歌に私は泣くだろう』の著者永田和弘氏のことが思い浮かんできました。永田氏の妻、河本裕子氏はガンの宣告を受けたあと、薬のせいで精神に変調をきたして、家族はその言動に苦しめられることになるのですが、永田氏自身も心が不安定となり、自ら死ぬことを考えるようになるほど追いつめられてしまいます。
恐らく、小倉氏も妻と長女の関係や長女の言動に心を痛め、何とかしなくてはという気持ちでいっぱいだったでしょう。しかし本書から浮かび上がるのは、自分の動揺する感情を押しこめ、我慢しながらも家族を温かく見つめる物静かな小倉氏の姿であり、そこに小倉氏の人間としての奥深さのようなものを感じます。

小倉氏の人生を言い表すものとして《冬草や黙々たりし父の愛》という俳句が本書で紹介されていますが、小倉氏は、家族だけでなく誰に対しても父のように静かに尽くしたしそうです。小倉氏のような域にはとても達することはできませんが、それでも、自分のことだけを考えるのではなく、周囲の人の心情に少しでも寄り添っていくことができればと思います。

読後感(とてもよかった)