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『蒙古襲来と神風 中世対外戦争の真実』を読みました

蒙古襲来と神風 - 中世の対外戦争の真実 (中公新書)

2018年7冊目の読了は、『蒙古襲来と神風 中世対外戦争の真実』(服部英雄/中公新書 初版2017年11月25日)です。新聞の書評欄で知り、手に取りました。

本書は、歴史学者であり、九州大学名誉教授、くまもと文学・歴史館館長である著者が、「神風史観・神風思想」のもとになった蒙古襲来に関する“通説”に批判を加えるとともに、有名な「蒙古襲来絵詞」を読み解いて、蒙古襲来の真相を提示するものです。

本書の前半では通説の検証が行われています。そもそも通説についての知識がないため、指摘されたことについて理解しづらいところもありましたが、蒙古襲来の原因、戦いの経過、神風史観の誤りなどについて詳しく解き明かされています。「硫黄」が日本侵攻の大きな理由であったこと、蒙古軍の船には多量の石がバラストとして積まれていたこと、鎌倉武士の奮闘により戦いに勝利できたこと、ただし薄氷を踏む勝利であったことなど、初めて知ったこと、認識を新たにしたことがたくさんあり、興味深いものがありました。

本書後半では、戦いに参戦した御家人の竹崎季長が描かせた「蒙古襲来絵詞」について、場面ごとに詳しく解説がされています。読んでいると武士の息遣い、馬のいななき、弓矢や“てつはう”の音が聞こえてくるような臨場感を覚え、鎌倉武士の命を賭しての奮闘ぶりには目を見張るものがありましたが、竹崎季長の絶体絶命のピンチを救ったのが友軍の“糞尿投擲作戦”だったというのには驚きました。初めから考えていた作戦だったのかもしれませんが、そこまでしないと勝てなかったことを物語っているようにも思えます。

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(P190図30 糞尿投擲作戦のため鼻をつまみ、目もあけられず、口で呼吸)

著者は本書で、神風史観・神風思想が近代日本に大きな影響を与え、神風特攻隊をはじめとして先の大戦における犠牲者・損失が増大した大きな要因になったと指摘しています。日本を救った薄氷の勝利が、それから何百年も経って日本を苦しめることになったというのは、皮肉なことかもしれません。

読後感(興味深かった)