えむと、メモランダム

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『津波の霊たち 3・11死と生の物語』を読みました

津波の霊たちーー3・11 死と生の物語

2018年15冊目の読了は『津波の霊たち 3・11死と生の物語』(リチャード・ロイド・パリ―、[訳]濱野大道/早川書房 初版2018年1月25日)
書評サイト『HONZ』で本書のことを知り、手に取りました。

著者のロイド・パリ―氏は、20年以上東京で暮らしているジャーナリストで、現在は英国『ザ・タイムズ』紙のアジア編集長・東京支局長。本書は、東日本大震災で起きた津波で、児童74名と教職員10名が死亡・行方不明となった宮城県石巻市の大川小学校の悲劇と震災後に起きた心霊現象をテーマとしたポルタージュですが、震災を通して日本の社会に対する鋭い指摘もなされています。

著者は、地震発生以来6年にわたり大川小学校のことを緻密に取材しています。本書では、取材で得た多くの証言をもとに、地震発生から津波が子供達を襲うまでの経緯、家族の悲しみと苦しみ、教育委員会への不信感と怒り、そして真実を明らかにするために起こされた裁判のことが克明に綴られています。

大川小学校の悲劇はマスコミでも報じられてきたので、その痛ましさは知っていましたが、本書で明らかにされている事実は想像を絶するものでした。
すべてが消え去った地獄のような世界。その中で泣きながら遺体を探し運び出す男たちと並べられた遺体を洗う女性たち。我が子の遺体を抱きしめマッサージし、目についた泥を自分の舌で洗い落とそうとする母親。子供を捜すために自ら重機オペレーターの免許を取る母親。懸命な捜索の中で丘の窪みや沼の中から発見される子供たちの遺体。胸がしめつけられる話が続き、途中で息苦しさを感じるほどでした。
大川小学校だけでなく多くの被災地で同じようなことが起きたと思うと、「自分は震災について何も知らない」ということに否が応でも気づかされてしまいます。

また震災後に開かれた教育委員会の説明会で、その場を丸く収めようとする役人や校長に対し、保護者たちが感情を露わにして投げた激しい言葉ーその言葉は「この、タヌギおやず!」「おだずなよ、おめ。」「一生かげで、八〇人死んだがぎどものかたぎとってやっからな、この。どごさも逃がさねど。」というように地元の人が話した通りに書かれているのですがー怒りと悲しみにあふれ、心に突き刺さってきました。しかし、いくら悲しみや怒りに寄り添えても、同じ経験をした者でなければその痛みを感じることはできません。その隔たりは大きく、深いものがあります。

本書のもう一つのテーマは心霊現象のこと。占い師を介して亡骸の行方を知ろうとする人や帰らぬわが子と“会話”する親、幽霊の出没、死者の霊に憑かれた人と除霊を行う僧侶など、本書で初めて知ったことばかりでしたが、被災地では数多くの心霊現象が見られたようです。
これまで霊魂の存在などほとんど関心がなく、どちらかというと懐疑的な方でした。しかし、霊魂の存在を信じる、信じないは大した問題ではなく、幽霊を見たこと(見たと信じていること)、心霊現象を体験したこと(体験したと信じていること)で、突然断ち切られた物語を再び続けることができ、心の傷が癒されるという指摘は、本書の読者であればよく理解できると思います。

著者は、震災後の東北地方の人たちの規律的で道徳的な姿に感嘆しながらも、一方で、大きな問題があるのに議論や対立を避け、抑圧的に振る舞う人が多いことに違和感を覚え、そして東北に限らず、平穏な心と自制心(悪く言えば我慢や諦め)があふれ、周囲の目や役人たちの意向を気にする日本の社会を批判しています。
もしかしたら、本書のタイトルにある“霊”には、被災者の霊だけでなく、日本に憑いて市民社会の健全な発展を妨げている亡霊も含まれているのかもしれません。

震災から間もなく7年。時間が経つにつれ記憶も次第に薄れていきますが、悲惨な出来事を決して忘れてはならないと、本書を読んで改めて思いました。

読後感(とてもよかった)