えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『無戸籍の日本人』を読みました

無戸籍の日本人 (集英社文庫)

今年18冊目の読了は、『無戸籍の日本人』(井戸まさえ/集英社文庫 初版2018年1月25日)。書店で目にして、手に取りました。2016年1月に刊行された同名の単行本の文庫版です。

本書は、元衆議院議員でジャーナリストである井戸まさえさんが、自身の子どもが無戸籍になったことをきっかけとして13年関わってきた「無戸籍者」の問題について、実際に携わった事例からその実態を明らかにし、無戸籍者に対する支援活動の日々を綴ったものです。

本書を読むまで、この問題が数年前にNHKのTV番組や新聞でも取り上げられたこと、まして戸籍のない日本人が1万人以上もいることなどまったく知らず、まさか日本でこんなことが起きているとは思ってもいませんでした。

本書では、自分にはまったく責任のない様々な事情から、戸籍を持つことができなかったいくつかのケースが紹介されています。戸籍がないのは親の事情によるものですが、しかし、そこには複雑で壮絶な親の人生があり、“親の無責任”の一言で片づけられるものではありません。

戸籍がないので住民票がつくれない、義務教育が受けられない、健康保険証が持てない、満足な仕事につけない、結婚・出産も困難を極める。普通では想像もできないことばかりです。まさに人権問題だと言えますが、まともな社会生活を営むことができず、経済的にも苦しく、人の目から隠れるようにひっそりと生きていく姿には、やりきれないものを感じました。

本書では、そんな無戸籍者の支援に立ち上がり、この問題の解決のために奮闘する井戸さんの姿が詳しく描かれています。
無料の電話相談の開設、NPOの立上げ、役所との交渉、自分の所属とは違う自民党政治家への働きかけ、その行動力は目を見張るばかりですが、井戸さんの強い思いが周囲を動かし、協力者が増え、壁にぶつかりながらも少しずつ道が開けていく様子は強く心に残りました。

井戸さんは松下政経塾出身者だそうですが、塾の創設者である松下幸之助さんは「何か事を成し遂げようとする場合、熱意と誠意が何より大事」「強い熱意は人の心を打ち、必ず協力者が現れ、周囲の情勢を動かす」と言っています。井戸さんの活動は、この言葉の“お手本”といっても過言ではないでしょう。

人権問題は自分の仕事の範囲でもあり、社内の人権研修の際にはいつも「人権とは人間が人間らしく生きる権利で、“生まれながら”持つ権利である」と説明しています。しかし残念ながら日本には、無戸籍者と同じように人権を享有できない人が数多く存在し、差別や偏見に苦しんでいます。井戸さんのようなことは、誰にでもできることではありませんが、せめて人権問題に無関心であってはならないと、本書を読んで改めて思いました。

読後感(考えさせられた))