えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読みました

 

今年23冊目の読了は、『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』(共同通信社原発事故取材班 高橋英樹/新潮文庫 初版平成30年3月1日)。書店で目にして、手に取りました。

本書は、2015年祥伝社から出版された『全電源喪失の記憶-証言・福島第1原発1000日の真実』を加筆・改題したもので、共同通信社が2014年3月から7月に全国の加盟新聞社に配信した連載記事『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発』とその続編として2015年4月から2016年2月に配信した『全電源喪失の記憶 証言・1F汚染』がもとになっています。

本書の解説で池上彰さんが、それぞれの国の国民にはみんなが語ることができる共通の大事件・大ニュースがあり、いま日本で共通の記憶は、2011年3月11日だと言っています。
確かに震災から7年が経ちましたが、私自身も、経験したことがないような大きな揺れで思わず机にしがみついたこと(オフィスのあった千代田区は震度5強でした)、帰宅を諦めて会社に泊まり応接室のソファで寝たこと、刻々と伝えられる被害の大きさに息を呑んだこと、あの時の記憶は断片的ですが、まだ鮮明に残っています。

そして、福島第1原発の深刻な状況が明らかになり、不安な空気が日本全体に広がったこと、水素爆発を伝えるTVに目が釘付けになったこと、自衛隊が行ったヘリコプターによる水投下の様子を、固唾を呑んで見ていたことも決して忘れることはできません。

本書は、まさにそのとき、原発で何が起きていたのか、原発の所員、協力企業の作業員、政治家、自衛隊員、地元住民など100人を超える取材をもとに、克明に綴ったものです。

テレビを見ていた私たちには知るよしもなかったことですが、本書を読むと、原発の状態が万策尽きて「東日本壊滅」を招きかねない危機的なものだったことがわかります。

そんな絶望的な状況の中で、事態を何とか打開しようと全身全霊で指揮をとる吉田所長、大量の放射線を浴びながらも職務を遂行しようとする原発の所員や協力企業の作業員たち、東京電力本店に対する政府・官邸の苛立ちと不信感、防戦からの転換点になった自衛隊の水投下。息詰まる場面が続き、こちらも祈るような気持ちになったのですが、それぞれが仕事への使命感、責任感を持ち続けて、最善を尽くそうとする姿は強く心に残り、また緊迫した現場で交差する、部下や同僚、故郷への思い、そして家族への愛情には胸が熱くなりました。

家族に遺書を書いたり、これが最後だと覚悟の電話をかけたりする場面もあって、読んでいる途中、目頭が熱くなったのは一度や二度ではありません。

著者の高橋さんは、所員を英雄視するつもりも、事故対応を美談に仕立てる考えもないと言っています。もっともなことかもしれませんが、制御不能の原子炉と決死の覚悟で闘った人たちにはやはり頭を下げるしかありません。このときあったことを忘れることはないでしょう。

事故後、原発推進、原発反対それぞれの立場から様々な意見が出ています。二者択一で答えを出せるような問題ではないと思いますが、稼働が続くのであれば、せめて同じようなことが二度と起きないよう万全には万全を尽くしてほしいと、心の底から願っています。

読後感(よかった)