えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『これからの本屋読本』を読みました

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2018年42冊目の読了は、『これからの本屋読本』(内沼晋太郎/NHK出版 初版2018年5月30日)。ツイッターで本書のことを知り、手に取りました。

本書の独特の装幀は目を引きますが、不思議な形は家(本屋)を表わしているようです。ネット書店の画像ではわかりにくいので、この記事の写真は自分で撮りました。

著者の内沼さんは、ブックコーディネータ、クリエイティブディレクターの肩書きを持つ一方、本に関するクリエイティブチーム「NUMABOOKS」の代表を務め、東京・下北沢に新刊書店「本屋B&B」も構えています。今、出版業界で内沼さんのことを知らない人は“もぐり”かもしれません。

本書は、その内沼さんが、本に関わった15年の経験をもとに書いたもの。出版不況といわれ、街の本屋さんが次々に消えていくなか、内沼さんは本屋と本の魅力を語り、本とは何かを考え、「本屋になる」ことの意味を独自の視点から明らかにしたうえで、「新しい本屋像」を提示し、本屋をやってみたいという人に向けて、具体的なノウハウを紹介しています。

内容はかなり実践的なので、実際に本屋を開業し、本をそろえて売買したいという人にとっては、本書はまさに恰好の教科書となるでしょう。“バイブル”と言っても過言でないかもしれません。

しかし、内沼さんが考える本屋は、商売としてやる本屋だけではありません。内沼さんは、「本を専門としている人」(出版社や印刷会社で働く人、ブックデザイナーなどはもちろん、フリーマーケットに出店する人、本のブログを書く人、ボランティアで読み聞かせをやる人なども含まれます)も本屋であり、さらに本を選んで手渡す側と受け取る側という関係が成立すれば、手渡す人(例えば子どもに本を買い与える親)も広い意味で本屋であると語り、また「かせぎ」(お金を稼ぐ)や「つとめ」(社会のために務める)だけでなく、「あそび」で本屋になることも勧めています。

そこには、私たちが今まで考えたこともない多種多様な本屋の出現があり、本屋の世界が大きく広がります。おそらく内沼さんは、本屋や出版業界の苦境など関係なく、そして商売でやるにせよ、そうでないにせよ、世の中にたくさんの本屋が生まれ、私たちの間をたくさんの本が行き交うことを願っているのだと思います。

もっとも、本屋がいい仕事をするためには、本の作り手である出版社のいい仕事が不可欠です。これまで出版業界を支えてきたシステムに綻びが目立つようになり、本に対する意識も変化している中で、旧態依然とした仕事ぶりでは、本屋はもちろん読者にも満足してもらえません。本屋が変わることは必要ですが、出版社も「これからの出版社」を考え、変わっていくことが求められます。

まずは、柳の下に三匹までドジョウがいるとしても、同じ著者、同じテーマの集中豪雨的な出版は考え直してもらいたいものです。

内沼さんからすれば、このブログを書いている私も「本屋」ということになりますが、本書を読んで、「あそび」でもいいので、もう少し本屋らしい本屋になってみたいという気持ちが湧いてきました。

読後感(よかった)