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『ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治』を読みました

ごみ収集という仕事: 清掃車に乗って考えた地方自治

2018年52冊目の読了は、『ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治』(著 藤井誠一郎/コモンズ 初版2018年5月30日)。雑誌の書評欄で知って手に取りました。

大学の准教授で地方自治の専門家である著者は、地方自治の表舞台ではなく、舞台の裏で汗を流す“名もなき自治体職員”の役割を明らかにするために、日頃意識している「現場主義」のもと東京・新宿区で9カ月間にわたりごみ収集業務を体験。本書は、その体験をベースにまとめられた報告書がきっかけとなって出版されたものです。

いくら現場主義といっても、敬遠されがちなごみ収集という仕事を、9カ月間という長期にわたり体験するのは並大抵なことではありません。ところが著者は、最初こそ“ためらい”“とまどい”があったものの、すぐに職員と一緒に当たり前のようにごみ収集に従事。その様子はとても印象的でした。

しかし何といっても心に残ったのは、過酷で問題山積の現場で行われているごみ取集の実態と、厳しい仕事にもかかわらず、ぐちや不満をこぼすことなく、住民に配慮しながら、ある種使命感のような思いを持って収集作業を進める職員の方々の姿です。

身体を壊しかねないゴミの重さときつい「臭い」、危険と隣あわせの作業(清掃職員は万一に備え破傷風のワクチンを接種しているそうですが、住民がルールどおりにごみ出しをすれば不要のものです)、過酷さが増す炎天下のごみ収集、ルールやマナーを無視するごみ出し、上から目線の住民の態度とやむことのない苦情、とんでもない状態の新宿二丁目。

普通だったら文句のひとつも言いたくなるところでしょう。しかしそれを飲みこみ、住民に迷惑をかけてはならない、地域を不衛生にしてはならないと、懸命に働く職員の姿にはただ頭を下げるしかなく、多くの人がこの実態を知るべきだと思わざるを得ませんでした。

本書では、地方自治体の財政難・行政改革を背景とした「行政サービス」の民間委託の問題もとりあげられています。現在、「行政サービス」の民営化、民間委託は様々な分野で進んでいます。清掃事業も例外ではありませんが、東京23区でも民間事業者なくして清掃事業が成り立たないことを本書で初めて知りました。

しかし著者は、民間委託が進むことにより、清掃職員が長年蓄積したごみ収集の知恵や工夫が失われる、住民との関わりが低下し住民が潜在的に得てきた行政サービスの水準が低下する、といった問題点を指摘。地方自治体における民間委託や清掃事業のあり方について提言を行っています。

昨年話題となった、神奈川県大磯町で起きた学校給食の食べ残し騒動は、民間委託の問題点を浮き彫りにしました。なるべくお金をかけないようにという理屈はわかりますが、それが住民に不利益を及ぼし、かえってムダを生むようであれば何にもなりません。

行政側には、コストだけを重視するのではなく、住民本位の適切な民間委託を考えてもらいたいものですが、一方私たち住民も、何でも行政まかせにするのでなく、サービスの進め方や税金の使い方にもっと関心を持つことが求められるのだと思います。

私たちのちょっとした配慮で、清掃職員の方々の作業が楽になり、街の美化が進みます。また、ごみを減量し、ルール通りにごみ出しをすれば清掃事業にかかるお金は少なくて済み、それは税負担の軽減にもつながっていきます。そのことはぜひ多くの人に知ってほしいところです。

今まで気にも留めなかったごみ収集ですが、本書を読んで、せめて清掃職員の方々の手を煩わせないようにしよう、そして清掃職員の方々への感謝を忘れないようにしようと、今更ながら思いました。

読後感(考えさせられた)