えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『朝毎読 蜂飼耳書評集』を読みました

朝毎読

2018年77冊目の読了は、『朝毎読 蜂飼耳書評集』(著 蜂飼耳/青土社 初版2018年10月30日)です。書店で目にして手に取りました。

現在、新聞は2紙を購読中。新聞の書評欄は週末のささやかな楽しみです。めったにありませんが同じ週に同じ本が2紙で紹介されていると俄然興味がわき、また自分が読んだ本が紹介されていると、少し嬉しくなります。

もっとも、全部の書評をじっくり読むようなことはなく、それこそ新聞記事を読むように、まずどんな本が紹介されているのかざっと見たあとに、面白そうな本の書評を拾い読みするというのが、いつものスタイルです。

本書は、詩人であり作家である著者の書評集。朝日新聞に掲載された書評57編、読売新聞に掲載された書評38編、そして毎日新聞に掲載された本や読書にまつわるコラム9編が収録されています。

本書を読んでまず感じたのは、これは単なる書評集やブックガイドというようなものではなく、文芸作品だということ。同じ内容を新聞でも読んだはずなのですが、読み物というより“情報”として捉えているせいか、あるいは週に一遍しか出会わないせいか、そんなことを思ったことは一度もありません。

しかし、収録された書評を一つ一つ読んでいくと、著者の感性によって選ばれた「言葉」が紙面にあふれ、本の世界だけではなく、著者の世界に入り込んでいくような感覚を覚えてきます。

「その痕跡や、時間と空間を越えて生まれる共鳴の尊さが、じつに爽やかに伝わってくる。」(『道の向こうの道』(森内俊雄、新潮社)の書評『読書で生まれる時空超えた共鳴』から)

「(略) 作者にとっての新たな試みが仕組まれ、言葉の連関が見せる亀裂のみずみずしさが、親しみを喚起する。」(『岩塩の女王』(諏訪哲史、新潮社)の書評『言葉発する行為、正面に見据え』から)

「昔話とは、希望と失望と欲望を凝縮して出来た美酒だと、改めてわかる」(『愉しき夜―ヨーロッパ最古の昔話集』(長野徹 訳、平凡社)の書評『長靴をまだはかない猫』から)

「因果と呼ぶほかない関係を、眺める眼差しの先にひろがる、死の静けさ。洗練された穏やかさの底にぞっとさせる妙味を潜める文章が、生と死を渾然一体のものとして浮かび上がらせる。(『雨の裾』(吉井由吉、講談社)の書評『老いの時間に渦巻く死と官能』から)

「寸分の無駄もない文章と展開に、溶かしこまれた人々の思いは烈しく、頼りない。揺れながら、互いを映し出す。」(『高く手を振る日』(黒井千次、新潮社)の書評『行き場のない淡い恋情』から)

これに留まりませんが、とにかく、本の内容もさることながら、次々に現れる印象的なフレーズに目と心が釘づけになりました。

そして、著者の言う新聞書評の「凝縮感」の面白さにも改めて気づくことに。なるほど、400字、800字という制限があるだけに、考えぬかれた言葉、テンポよく展開される文章は新聞書評の魅力に違いありません。

それにしても、言っても詮無いことですが、著者の表現力は羨ましい限りです。

読後感(よかった)