えむと、メモランダム

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『すべての医療は「不確実」である』を読みました

すべての医療は「不確実」である (NHK出版新書 567)

2018年80冊目の読了は、『すべての医療は「不確実」である』(著 康永秀生/NHK出版新書 初版2018年11月10日)です。書店で目にして手に取りました。

“エビデンス”という言葉をよく見聞きします。“科学的根拠”を意味しますが、本書によると、「科学的根拠に基づく医療」(evidence-based medicine:EBM)という考え方が提唱されたのは1990年ということで、それからまだ30年ほどしか経っていません。

もちろん、それまでの医療に科学的根拠がなかったということではないでしょうが、経験や勘に頼る部分が多かったことも事実のようです。

本書は、東京大学大学院教授で、このEBMを実践するための基盤である「臨床疫学」の専門家である著者が、EBMの考え方や医療の実態を紹介し、私たちが健康で長生きするためのヒントを示すもの。

「治療法」、「医療情報」、「食品」、「検査方法」、「がん」、「認知症」。それぞれ具体例をあげて、研究・調査結果をもとに効果効能の真偽や評価などを明らかにしていきます。

「かぜに抗菌薬はむしろ有害」(それでも処方されるのは、患者に納得して帰ってもらうための「グッドバイ処方」だから)、「さまざまな民間療法(代替医療)は、科学的根拠に基づいていない」、「ビタミンCではカゼを予防できない」、「加工肉に“食べるな危険”のレッテルを貼るのはナンセンス」、「健康食品に、病気を直接治す効果はないし、特定の身体機能を増強する効果もない」。

これにとどまりませんが、著者の科学的根拠に基づく話は説得力があり、明快です。また、ワクチンの副作用の話やがん検診の精度の話も興味深く、私たちがいかに、裏付けのない情報、思い込み、イメージや宣伝に影響を受け、惑わされているかがよくわかります。

一方で、「医学が進歩を続けるのは、いつまでたっても医学が完璧ではなく不確実だから」、「医学の進歩というのは既存の薬や治療技術を、試行錯誤を繰り返しながら改良していくこと」といった言葉にも目がとまりました。

著者によれば、画期的な特効薬の誕生や革命的な治療技術の開発などごく稀なことだそうです。医者の腕や出された薬を信頼しなければ治療にはなりません。しかし、過度に期待し、完璧を求めるのは、現実的ではないことも事実。そのことをよく理解しておいた方が良さそうです。

初めて知ったことが多く、とても有益でしたが、あとがきで語られている、臨床医学に挑む著者の思いも心に残りました。

読後感(参考になった)