えむと、メモランダム

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『一発屋芸人の不本意な日常』を読みました

一発屋芸人の不本意な日常

2019年4冊目の読書レポートは、『一発屋芸人の不本意な日常』(著 山田ルイ53世/朝日新聞出版 初版[奥付]2019年1月30日)です。書店で目にして手に取りました。カバーの装画が印象的です。

著者の山田ルイ53世さんは、お笑いコンビ「髭男爵」の一人。前著の『一発屋芸人列伝』(新潮社)は、昨年「第24回雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞し、また「本屋大賞・ノンフィクション本大賞」にもノミネートされるなどして、大きな話題となりました。

私も一読しましたが、“一発屋芸人”たちの生き様と、彼らに対する温かな思いが軽妙に描かれていて、そして何といっても比喩が抜群に面白く、今でも心に残っています。

本書は、Webサイトの連載記事に書き下ろしを加えてまとめたエッセイ。今度は、山田ルイ53世さん自身の“不本意な日常”の様子とそこで湧き上がってくる複雑な感情が、赤裸々に描かれています。

前著では、芸人たちの「しぶとく」「たくましく」「がんばって」いる姿があり共感することもありました。ところが本書では、山田ルイ53世さんが日々味わっている「厳しく」「切なく」「辛い」現実が迫ってきます。

「ゴミ」(ハンバーガーの包み紙、スーパーのチラシ、レシートの裏…)にサインする、「健康番組」で不健康なモルモットになる、海外ロケに行くときに先発スタッフの忘れ物の運び役となる、企業のパーティで酔っ払いを相手にする、スケジュールを埋めるため“モデルルームの内覧会”のように「家ロケ」のオファーを受ける、ハロウィーンのパレードで自分たち(本物の芸能人)ではなくブルゾンちえみのコスプレ(素人)にカメラが向けられる、テレビの特番で5時間出番を待って一言も喋らぬうちに放送が終わってしまう。

お笑い芸人のさだめとはいえ、何食わぬ顔をして身勝手・無遠慮に振る舞う人達に、身も心も翻弄される一発屋の悲哀が心に染み込み、こちらまで打ちのめされそうになります。

もっとも、だからといって本書を読んで深刻になることはありません。それは前著と同様、比喩が冴え、皮肉も効いてコミカルで面白いこと、そして屈辱感、嫉妬、劣等感、悔しさを感じながらも、自分を否定せず、“一発屋の矜持”(?)を持って奮闘する山田ルイ53世さんの姿があるからでしょう。

人生には山だけでなく谷もつきもの。芸人ならずとも、理不尽なことも嫌というほど経験します。そんなとき、山田ルイ53世さんの「棺桶に入るまでは、とりあえず生きる」といった潔さや負けを認める生き方は、私たちにとっても“救い”になるかもしれません。

ところで、昨年このブログで『一発屋芸人列伝』の続編があるなら、「餅つき」をネタにしているお笑いコンビ「クールポコ」を取り上げてほしいと書きました。願いが通じたわけではないでしょうが、本書では名前こそ出てこないものの、“やっちまった”二人組が一瞬登場します。ちょっと嬉しい出来事でした。