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『「承認欲求」の呪縛』を読みました

「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)

2019年12冊目の読書レポートは、『「承認欲求」の呪縛』(著 太田 肇/新潮新書 初版2019年2月20日)。書店で目にして手に取りました。

「承認欲求」というのは、他人から認められたい、自分が価値ある存在だと認めたい欲求のこと。本来は正常な欲求の一つで、モチベーションや仕事の成果を高める原動力でもあり、人間にとっては重要なものだそうです。

ところが本書の著者によれば、日本では、承認欲求に強くとらわれる「承認欲求の呪縛」に陥る人が増え、それが組織や社会に深刻な影響を及ぼしているとのこと。

スポーツ界のパワハラ、イジメや引きこもり、官僚による文書改ざんや事実隠ぺい、品質検査データのねつ造といった企業不祥事、過労自殺や過労死、そしてSNSでの「不適切動画」の投稿。昨今世間を賑わせている様々な社会問題は、「承認欲求の呪縛」が背後に隠れているのだそうです。

本書は、組織論の専門家である著者が、この「承認欲求の呪縛」について詳しく論じたもの。どうして人は(とりわけ日本人は)「承認欲求」にとらわれ、問題行動を起こすようになるのか解き明かすとともに、どうしたら呪縛に陥らないで済むのか、そのポイントを示しています。

承認欲求は人間にとって最強の欲求で、「承認」には、モチベーションのアップ、自己効力感の向上といった効果が認められる。しかしその一方で、無意識に抱く「認められたい」という思いが、認められたことで「期待に応えなければ」というプレッシャー(これが「承認欲求の呪縛」の正体)に変わり、本人を追い詰めていく。

そして、プレッシャーが限界を超えたとき、過労死・過労自殺といった取り返しのつかない悲劇が起き、ひきこもりを生み、隠ぺいや不祥事へとつながっていく。

しかも、まじめ・几帳面といった性格、日本の社会や組織の特質(強い共同体意識)から、ごく普通の日本人でも「承認欲求の呪縛」に陥る危険性を孕んでいて(著者は「承認欲求の呪縛」は「日本の風土病」と言っています)、また社会的にエリートと言われる人は「承認欲求の呪縛」から逃れることが難しい。

これらのことが、著者自身の研究成果やスポーツ選手などの具体的な事例をもとに、明快に説明されています。

悪いことだと認識していながら成人式で騒動を起こし、不適切動画を投稿する。高級官僚が自分の身を捨ててまで身内やトップを庇う。企業の不祥事が長い間隠ぺいされ続け、繰り返される。本書を読んでその理由がよくわかりました。

著者は、「承認欲求の呪縛」から逃れるには、「認知された期待」を適正水準に下げる、「自己効力感」をアップする(期待に応えられる自信をつける)、「問題の重要性」を下げる(問題を相対化する)の3つが重要だとし、具体的な方策を示しています。

「残業手当の増額」、「有休休暇の買い取り」など実現に困難を伴うものもありますが、「ほめ方を工夫する」、「もう一つの世界を持つ」といったことはすぐにでも実践できそう。ぜひ多くの人に知ってほしいものです。

日本はグローバル化に逆行し、狭い共同体にとらわれる傾向が強まり、それが「認められなければならない」「認められさえすればいい」という“歪み”を生む要因にもなっていると著者は指摘しています。

私たちの意識が内向きになるのは、将来への不安感や社会の閉塞感といったことが影響しているでしょう。“歪み”を正すには、そんなネガティブな感覚の払拭も大事なことに違いありません。