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『世界のすごいお葬式』を読みました

世界のすごいお葬式

2019年16冊目の読書レポートは、『世界のすごいお葬式』(著 ケイトリン・ドーティ 訳 池田真紀子/新潮社 初版2019年2月25日)。SNSのつぶやきで本書のことを知り、手に取りました。

著者はロサンゼルス在住の女性。大学で中世史を学んだ後、サンフランシスコの葬儀社に就職。その後、アメリカの一般的な葬儀ビジネスとは一線を画し、土葬、火葬、直葬、自然葬など故人や遺族の希望に沿う葬儀をプランニングする葬儀会社を自ら設立したそうです。

本書は、死にすっかり臆病になってしまった“アメリカ文化”に嘆息し、他の地域(文化)で死がどのように扱われているのか関心を持った著者が、日本を含む世界8カ所を駆け巡り、独特な葬儀の様子や死に対する向き合い方を紹介するルポルタージュ。

登場するのは、アメリカ・コロラド州で行なわれている住民参加の「野外火葬」。数カ月から数年に渡り遺体を自宅に安置してミイラ化し、埋葬後数年に一度墓から取り出して手入れするインドネシア・トラジャ族の風習。ガイコツの扮装をした人達が陽気に踊りながら練り歩くメキシコの「死者の日」。アメリカ・ノースカロライナ州で行なわれている「死体で肥料を作る研究」(本当の意味で土に還す研究です)。スペイン・バルセロナのガラスを多用する葬儀。日本ではテクノロジーを駆使した納骨堂、火葬場と骨上げ、それにラステル(ラスト・ホテルの略)と呼ばれる死者専用ホテル。ボリビアの頭蓋骨を自宅に祀り、魔除け祈願する人々。そして、アメリカ・カリフォルニア州で著者自ら行った自然葬。

また、実際に著者は訪れてはいませんが、チベットの鳥葬の様子も紹介されています。

日本のエピソードを除けば、とにかく驚くようなものばかり。弔い方や死者に対する考え方は様々であることがわかります。けれど著者は決して好奇の目では見ていません。自分たちの慣習と異なっている葬送形態を“野蛮”“劣っている”とする考え方をきっぱりと否定し(もちろん日本の骨上げも)、それぞれにある死者への寄り添い方に理解を示しています。

著者は、高額、商業的、画一的なアメリカの葬儀ビジネスを批判し、また死に寄り添うどころか、死を遠ざけるようとする人々の意識にやりきれなさを感じているようですが、事情は日本も似たようなもの。

私も昨年父を亡くした際は、葬儀社との打ち合わせに追われ、とにかく葬儀を滞りなく済ませることで頭がいっぱいとなり、死を悼むどころではありませんでした。多くの人から「いい葬儀だった」と声をかけてもらったのですが、今もって何か釈然としないものが心に残っています。

異国の地の“すごいお葬式”の話を興味深く読みましたが、死者を悼み、弔う意味を深く考えさせるものでした。