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『三河吉田藩・お国入り道中記』を読みました

三河吉田藩・お国入り道中記 (インターナショナル新書)

 2019年21冊目の読書レポートは、『三河吉田藩・お国入り道中記』(著 久住祐一郎/インターナショナル新書 初版2019年4月10日)。書店で目にして、手に取りました。

本書のテーマは、「古文書から読み解く参勤交代の真実(リアル)」。

参勤交代というと、「下に~、下に~」という掛け声とともに大名行列が通り、それを庶民が土下座をして見送るというシーンがイメージされますが、個人的には、佐々木蔵之助さん主演の映画『超高速!参勤交代』や、浅田次郎さんの小説を原作にしたNHKのTVドラマ『一路』のことが思い起こされます。

本書は、天保12年(1841年)、三河吉田藩の若殿様松平信宝(のぶとみ)が、江戸から吉田(現在の愛知県豊橋市)までお国入りしたときの様子を、家臣が書き残した詳細な記録を紐解きながら明らかにして、参勤交代の実態と江戸時代の武士の姿を紹介するもの。

「古文書から読み解く」といっても、決して学問的なものではなく、豊橋市美術博物館の学芸員である著者の解説は、とてもわかりやすく、吉田藩松平伊豆守家のあらましから始まり、参勤交代の話に進んでいきます。

参勤交代に参加するメンバーの決定、武具や馬具などの準備、奉公人(中間)の手配、藩士たちへの手当の支給、宿の予約、他藩との日程調整、道中の重要規則である「道中法度」の徹底・・・。

とにかく、行列そのものより準備に大変なエネルギーが必要なことがよくわかりましたが、思いがけないトラブルに遭遇しながらも、そつなく仕事をこなしていく、家臣たちの姿も印象的。役職は世襲が基本なのでしょうが、有能でないと、務まりそうもありません。

そのほかにも、この当時すでに吉田藩は財政難であり、節約を旨としているものの、それでも何かと出費がかさむこと。大名行列は“派遣労働者”と“派遣会社”なしではできなかったこと。目立つところだけ大きな隊列を組むこと。先例主義と文書主義が徹底していること。紛失物、病気、死亡、川止めなど道中のアクシデントの対処方法が事細かく決まっていること。参勤交代の裏側は、実に興味深いものがありました。

面白かったのは、道中の付け届けの慣習。お返し目当てのものもありそうですが、折々に献上品と返礼のやり取りがあり、現代のお中元やお歳暮につながる“贈り物文化”が垣間見えました。

ただ吉田藩では(どの藩も同じだったかもしれませんが)、お返しの出費を抑えるため献上品を受け取らないこともあって、涙ぐましい経費削減の取り組みには同情してしまいます。

参勤交代は儀礼のひとつに過ぎません。けれど、主従の結びつきの強さや家柄による待遇の違いなど、封建制度の在り様をまざまざと映し出しているようです。

それにしても明治維新後も、お殿様と家来の関係が続いていたのには、驚きました。