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『なぜ人は騙されるのか 詭弁から詐欺までの心理学』を読みました

なぜ人は騙されるのか-詭弁から詐欺までの心理学 (中公新書)

2019年29冊目の読書レポートは、『なぜ人は騙されるのか 詭弁から詐欺までの心理学』(著 岡本真一郎/中公新書 初版2019年5月25日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、社会心理学の専門家である著者が、人の行動や考え方に影響を与えようとする言動(=説得)に焦点をあて、心理学的な観点から、「広告」、「特殊詐欺や悪徳商法」、「政治家や官僚の言い逃れ」、「フェイクニュース」と「説得」の関係について考えるもの。

まず第1章で「説得」の基本原理(メカニズム)を解説。人間は考える前に行動しており、プライミング(前もって示された刺激)、係留点(基準になる数値)、確証バイアス(先入感)が無意識のうちに行動に影響していること。

また、説得を受けいれるかどうか決めるプロセスには、中身を吟味しないヒューリスティック(発見的)処理と、内容を熟慮するシステマティック(体系的)処理の二つがあり、興味がないことやよく知らないことは、ヒューリスティック処理をしがちであること。

さらに、「脅し」、「丁寧な表現」、「話し方」、「尋ね方」などによって、受ける印象が変わり、行動も変わるといったことが、わかりやすく説明されています。

そして第2章以降で「広告」、「特殊詐欺や悪徳商法」、「政治家や官僚の言い逃れ」、「フェイクニュース」を取り上げ、この基本原理との関係や働きなどを検証。

私たちがなぜ広告に惑わされ、特殊詐欺や悪徳商法に騙されるのか。政治家や官僚はどのように言い逃れるのか。フェイクニュースを信じ込むのはなぜなのか。具体的な事例などをもとに明らかにし、「安易に言いくるめられない、騙されない」ための方法についても、示しています。

本書を読むと、そもそも何が正しいのかという問題はさておき、正しい判断をするということが、人間にとって至難の業であることがよくわかります。

芸能人のもっともらしいコメントや、わけのわからない“実験”とか“成分”に誘導されたり、ポイントや値引きに心が奪われたりするのは、逆説的かもしれませんが、「心が正常に働いている証」と言えなくもありません。

しかし、だからといって「騙されるのは仕方ない」ということにはならないはず。著者は、ごまかし、悪質商法や詐欺、間違った発言、フェイクニュースに騙されないためには、人間の行動の多くは無意識的なものであることを自覚したうえで、少し立ち止まり、説得(誘導)する側の視点から考えることが大切だとしています。

「人の言うことを何でも真に受けない」、「自分の気持ちに疑いを持つ」、「他の人の意見を聞いてみる」といったことになるのかもしれませんが、それができれば、幾分なりとも物事を冷静に考えられるようになるでしょうし、相手の意図も見えてきそうです。

それにしても、人間の心の動きは不思議であり、ときに厄介なものだとつくづく思ってしまいます。