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『発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代』を読みました

 

発掘!  歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代 (光文社新書)

2019年43冊目の読書レポートは、『発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代』(著 高野 光平/中公新書 初版2019年7月30日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、テレビ草創期(1953年から1968年くらいまで)に放送されたテレビCMとともに、昭和30年代の日本の社会を探訪するもの。

社会学者でメディア史などを研究している著者が、立命館大学アート・リサーチセンターにある「20世紀のテレビCMデータベース」から、“最古”かつ“無名”のCMを取り上げ、400点近い画像とともに、当時のCMの実態や商品について解説し、さらに時代背景や庶民の暮らしぶりを見ていきます。

登場するCMは、私が生まれる前から小学校高学年頃までに放送されたもの。しかし、無名というだけあって、もちろん幼かったこともあり、まったく記憶にはありません。

それだけに、どのCMも興味深く、紹介されている商品やサービスは物珍しいものばかりでした。

その中で特に印象に残ったのは、今とはまったく感覚が違う作品の数々。

よそ行きの格好をした家族が外車に乗ってピクニックに出かけ、桃の缶詰やコンビーフを食べる缶詰のCM。(缶詰は高級品だった)

原料(酢酸ビニール)が化学工場で作られている場面を映し出すガムのCM。(食品の持つ化学性と工業性がアピールポイント)

衣服の破れの応急処置や靴ずれの予防に使うことを提案するセロテープのCM。(セロテープは画期的なハイテク製品だった)

バターをそば、うどんに一粒落すことで味がよくなり、栄養もとれることを伝えるバターのCM(味はともかく滋養に富んでいることが重要)…。

半世紀も経てば、人々の意識や暮らしは変化するのが当然ですが、それがCMからわかるのが面白いところです。

また、雑誌の付録によくついていた「ソノシート」、10円玉を投入する噴水式のジュース自販機「オアシス」、よく食べた古谷製菓の「丸出だめ夫チョコレート」といった商品に久しぶりに出会い、当時のことが懐かしく思い出されてきました。

一方、CMを通した時代背景の分析・考察などは著者ならではのもの。丹念な調査をもとにした話はわかりやすく、昭和30年代の、伸び盛りの日本の風景が目の前に現れてきました。

著者の言うように、日本の昭和30年代の日本は、“ALWAYS 三丁目の夕日”のような世界だけではないことがよくわかります。

「広告は社会を映す鏡」と言われるそうですが、CMから社会を読み解く面白さを本書で実感しました。データベースには1万8千本以上のCM映像が収録されているとのこと。本書に留まらず、知らない世界にもっと連れて行ってほしいものです。