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『生き物の死にざま』を読みました

生き物の死にざま

2019年46冊目の読書レポートは、『生き物の死にざま』(著 稲垣栄洋/草思社 初版2019年7月15日)。書店で目にして、手に取りました。

本書は、私たちの知らないところで日々繰り返されている、生き物たちの生と死を描いたエッセイ。

セミ、カマキリ、ミツバチなどの昆虫。サケ、チョウチンアンコウ、マンボウといった魚。ウミガメ、ヒキガエルやニワトリ。そしてネズミ、イヌ、ゾウなどの哺乳動物。

印象的なイラストとともに、全部で29種類の生き物の生態や生存戦略を紹介しながら、生き物たちの心に残る“最期”の様子が、しみじみと綴られています。

自分の体を子どもたち食べさせて命を終えるハサミムシの母親。

子孫を多く残すためにメスの栄養源として食べられてしまうカマキリのオス。

精子を放出した後はメスに吸い込まれるように消えていくチョウチンアンコウのオス。

一生に一度だけの繁殖を行なった後に生涯を閉じるタコのオスと、卵を愛情深く守り続け、孵化を見届けると力尽き死んでいくメス。

卵を産めなくなると、容赦なく捨てられていくシロアリの女王アリ。

仲間のため、子孫のために、最後のご奉公として命懸けで蜜集めに飛び立つ働きバチ。

巣の中に生まれ、生涯を巣の中で過ごし、巣の中で一生を終えるメスのミノムシ…。

どのエピソードもどこか切なく、はかなさもありますが、潔くもあり、気高ささえ感じさせる生き物もいます。

もっとも、生存環境が厳しい世界では、自分の命を捧げて子孫を残すというのは、自然の理法ともいえ、生命の営みの中ではよく見られること。

生き物の誕生した目的や生きることの意味は、ただひとつ「子孫を残すこと」と言っても過言ではないでしょう。そのためのプログラムはよくできています。

一方、生まれてからわずか四、五十日で死ぬことを宿命づけられているブロイラーの話や、「死ぬことが仕事」のハツカネズミの話にはちょっと複雑な思いが。人間のために命を捧げている生き物がいることを、忘れるわけにはいきません。

「一寸の虫にも五分の魂」ということわざがあります。けれど生き物たちが持っている“大切な命を次の世代につなぐ”という魂は、間違いなく人間より強く大きいものが宿っている。
本書を読んでそう思わざるを得ませんでした。