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『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』を読みました

つけびの村  噂が5人を殺したのか?

今年54冊目の読書レポートは、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(著 高橋ユキ/晶文社 初版2019年9月25日)。書店のSNSで本書のことを知り、買い求めました。

2013年7月、山口県周南市の限界集落で、8世帯12人の住人のうち5人が殺害され、2軒が放火されるという凄惨な事件が発生。

しかも犯人の自宅の窓には、「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と書かれた謎めいた張り紙が貼られていて、その不気味さから「平成の八つ墓村」などと呼ばれ世間を騒がせました。

本書は、‟傍聴ライター”として活躍する著者が、この「山口連続殺人放火事件」の真相に追っていくルポルタージュ。本書刊行前に、著者が「note」に投稿した記事に加筆し、まとめたものです。

著者が事件の取材を始めたきっかけは、別のテーマの取材のためこの地を訪れたときに、村人から事件の噂を聞いたこと。

著者は、噂の真偽を確かめるため、何度も現地に赴いて取材を重ね、犯人の生い立ちを調べ、さらに拘置所にも行き犯人と面会します。

すると、裁判では犯人の妄想だとされた村人たちの噂話が、実際にあったことが明らかに。

著者は、この地区での噂話(悪口)の充満が、犯人の妄想性障害を悪化させた可能性があり、噂話と犯行は無関係ではないと確信します。

物語の前半、著者の取材によって次第に核心に近づいていく様子は、ミステリーの謎解きのよう。緊迫感も漂い、面白く読みました。

ただ、印象に残ったのは事件そのものより、噂話を面白がり、表向きは何事もないように装いながら陰では悪口を言い合う住人たちの姿です。

悪気はないのでしょうが、人を傷つけているという意識も希薄。まさか噂話が殺人事件に関係しているなどとは、思ってもいないことでしょう。

しかし、それはここだけの問題とは言えません。ネットにあふれるフェイクや誹謗・中傷。それを煽り広める匿名の人たちと、名指しされ傷つく人。限界集落で起きていることが、私たちの身近なところでも存在していることに気づかされます。

事件の犯人は、精神障害を認められることなく、最高裁で死刑が確定しました。被害者の遺族からすれば、当然の判決かもしれません。

けれど、本書を読む限り、精神障害はなかったと言い切れるのか、妄想だけでこれだけの事件を起こせるのか、精神障害があったと認められた裁判とどこが違うのか、モヤモヤしたものは残ったままです。

犯人を処罰して終わりではなく、犯行に及んだ真の理由が明らかにならないと、同じような事件がまた日本のどこかで起きかねない。

心配しすぎかもしれませんが、そんな思いが頭をよぎりました。