えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『かきバターを神田で』を読みました

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2019年60冊目の読書レポートは、『かきバターを神田で』(著 平松洋子 画 下田昌克/文春文庫 初版2019年11月10日)。書店で目にして、手に取りました。

著者の平松さんは、「食文化と暮らし」をテーマに、たくさんの著書がある人気のエッセイスト。本書は週刊文春の連載コラムを文庫化したもので、「食エッセイ」76編が収録されています。

本書の解説は堂場瞬一さんが務めていますが、堂場さんによると、食エッセイを読む時のポイントは「憧れ」か「共感」。

「憧れ」は、食べ物なら「食べてみたい」、お店なら「行ってみたい」と思わせることで、いかにそこへ誘い込むかが、書き手の腕の見せ所。そして「共感」とは、「あ、これ、食べたことがある」だそうです。

もちろん、平松さんの腕は確かなもの。
『かきバター』(とんかつ万平)、『あぜくら』(みやび堂製菓本舗)、『肉そば』(山形一丁亭)、『とん蝶』(絹笠)、『麗郷』(渋谷の台湾料理店)、『とよ田』(自由が丘の鶏料理店)…。

そして、平松さん自身が普段の生活のなかで作った「おでん」、「煮卵」、「カレー」、「なずそうめん」、「さんまのコンフィ」、「きのこ満載スープ」…。

平松さんの巧みな表現で、食べ物の姿やお店の様子が目の前に現われ、ページをめくるたび「食べてみたい」、「行ってみたい」という気持ちになったのは、言うまでもありません。

なかでも、平松さんが北海道で食べ尽くしたエゾシカは、一体どんな味なのか、かなり興味をそそられてしまいました。

そのほか、本書で妙に印象に残ったのは、無類の鰻好きだった斎藤茂吉のエピソード。

「一体どこまで食べれば気が済むのか」と思わせるような食べっぷりは、驚くばかりだったのですが、鰻がすっかり並ばなくなったわが家の食卓が思い起こされ、ちょっと寂しい気分にもなりました。

それにしても、「食べ物」というのは、人の心をかき乱すものだと、つくづく思います。