えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『2050年のメディア』を読みました。

2050年のメディア

2020年1冊目の読書レポートは、『2050年のメディア』(著 下山 進/文藝春秋 初版2019年10月25日)。発売と同時に買い求めたものの、しばらく積読状態。ところが読み始めたら、ページをめくる手が止まりませんでした。

著者は、文藝春秋でノンフィクションの編集者を長く務めた後、現在は慶應義塾大学湘南キャンパス(SFC)にある総合政策学部の特別招聘教授。

本書のタイトルは、著者が開講している講座名から採ったとのことです。

ただし、内容は未来予測の本ではなく、ヤフー・ジャパンの設立(1996年)を起点として、この四半世紀の間に起きたメディアの変貌を、読売新聞、日本経済新聞、ヤフー・ジャパンの動きを軸に綴ったもの。

インターネットが新聞社にとって無視できない存在となっていく中、三者三様の思惑で、競争に打ち勝とうと試行錯誤する姿と、そこに渦巻く生々しい人間関係や組織の内幕が、著者の丹念な取材をもとに詳しく描かれています。

世界最大の発行部数を誇り、強固な新聞販売網を持つがゆえに、「紙」をベースにした従来のビジネススタイルにこだわる読売。

新聞業界の将来を見越し、他紙に比べ新聞販売店のしがらみが少ないこともあって、「デジタル」に大きく舵を切っていく日経。

そして、吹けば飛ぶような企業から巨大プラットフォーマーに急成長するものの、スマホの登場でその地位を脅かされ、未来に向け「データ企業」に変身しようとするヤフー。

この激動の間、各社が何を考え、どう行動し、その結果何をもたらしたのか、手に取るように知ることができ、それはまるで三国志の物語のよう。

また、本書で示されている新聞各社の売上げデータや、「清武の乱」、「新聞協会のパワハラ問題」といった幕間の話には驚くばかりで、読んでいて興味が尽きませんでした。

印象的だったのは、ディスク・ドライブ・メーカーの変遷をもとに紹介されている「イノベーターのジレンマ」の話と、コダック社と富士フィルムの対比。

とりわけ、富士フィルムが古森重隆CEOのもとで行ってきた3つの探索―①自社の既存技術で新しい市場に適用できることはないか ②新しい技術で既存市場に適用できることはないか ③新しい技術で新しい市場に適用できることはないか―の話は、結果が出ているだけに、強く心に残りました。

リストラをすると株価が上昇する時代、市場の縮小といった危機が目前になくても、企業は常にこの3つの視点を持っていないと、遅かれ早かれ退場を迫られることになりそうです。

パナソニック(松下電器)の創業者である松下幸之助さんは、「日に新たに」という言葉で、現状に甘んじることを戒め、企業は社会の変化に適応し、一歩先んじなければならないと語っていました。

2050年は今から30年後の世界。どんな状況になっているのか想像もつきませんが、一歩先んじたメディアだけが、隆々と生き残っていることは確かでしょう。

けれどその姿は、今と似ても似つかないものになっていることは間違いないと思います。