えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『感染症 広がり方と防ぎ方 増補版』を読みました

感染症 増補版 広がり方と防ぎ方 (中公新書)

2020年15冊目の読書レポートは『感染症 広がり方と防ぎ方 増補版』(著 井上 栄/中公新書/初版2006年12月20日 増補2020年4月25日)。

新型コロナウイルスの影響で、書店では感染症に関する本がたくさん並んでいます。
カミュの『ペスト』は2月以降に15万部以上も増刷されたとのこと。見えない不安に苛まれている人が、それだけ多いのでしょうが、私もその一人。

「感染症」をテーマした本など普段なら関心が向きませんが、気になって手に取りました。

本書は、2006年に刊行された旧版に、新型コロナウイルスに関する章を増補したもの。

初めに病原体の伝播経路について説明があった後、伝染病対策の歴史、病原体の種類・特徴、対処方法など感染症の全体像について解説。最後に、新型コロナウイルスについて、著者の考え方を示しています。

増補版なので、新型コロナウイルスについての記述は、そう多くありません。内容からいえば、連日マスコミで発信される情報の方が具体的です。

けれど感染拡大のメカニズムや遮断方法の基本は、そう大きく変わるものではありません。

著者は、感染症伝播を押さえる“簡単な手段”としてマスク、箸・手洗いなどをあげていて、それは今私たちが求められていること。

また同時に、薬やワクチンよりも、「危険を避ける行動を文明社会での新たな文化にしたらいい」とも述べていて、それは今回の緊急事態延長にともない示された「新しい生活様式」に通じるもの。

著者の考えが、今現実のものになっています。

ところで、本書で興味深かった話のひとつが、「ガーゼ」、「不織布」、「紙」の3種類のマスクを使って行った、咳風速の測定実験。

結果は、マスクの種類に関係なく同程度に咳風速は低下したとのこと。
著者は、咳風速の低下は、飛沫の飛散量や飛沫核の量を減らすものだとし、「新型インフルエンザ」発生時には、政府が無料マスクを国民全員に配ることを提案しています。

思わず政府による“ガーゼマスク配布”を重ね合わせてしまいましたが、外出時のマスクは感染対策の基本中の基本であることを再認識しました。

また、「玄関で靴を脱ぐ生活習慣のため、日本では靴についたウイルスは室内に持ち込まれにくい」、「有気音が少ない日本語の発音は、飛沫感染が起こりにくい」といった指摘も目を引くものです。

欧米に比べ、日本の感染者が少ない理由が色々取り沙汰されていますが、著者が示唆するように、日本人の生活様式が思わぬ効果を生んでいるのかもしれません。

著者によると、「ウイルスは生き残るためにみずから弱毒化する」という理論があるそうです。

治療薬やワクチンが開発されたとしても、“凶暴性”は消え失せてほしいものです。