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『あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン』を読みました

あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン (講談社現代新書)

2020年20冊目の読書レポートは『あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン』(著 住吉雅美/講談社現代新書/初版2020年5月20日)。

昨年末にサラリーマンを卒業。法務系の士業に転身し、今は法律とともに仕事をしていますが、「法哲学」などには関わりのない毎日。

少しは学問的な世界が知りたくなって、手に取りました。

著者は青山学院大学法学部の教授。著者によれば、「哲学」とは常識を問い直し、思い込みを問い質し、真理を探究する学問。

そして法哲学は、法律に対してその思考を向けるもので、そこには“天使”と“悪魔”の二つの顔があるとのことです。

著者の法哲学は“悪魔の顔”の方だそうで、法律とそれを支える学や常識に疑問を呈し盾突いてゆくもの。

本書では、まず法律の功罪を示したあと、大学の講義そのままに、“常識を揺さぶる”問いかけを枕に法哲学の論点(テーマ)を解説し、法にまつわる様々な問題を切っていきます。

「自発的な売春は是か非か?」、「自分で飲む酒を自分で造るのは悪いことか?」、「ヒッチハイクは軽犯罪か?」、「動物に権利はあるのか?」、「自分の意思で自分の臓器を売ってはいけないのか?」…。

意表を突く問いと、独特の語り口で、法哲学の世界にどんどん引き込まれていきますが、そこは常識や既成概念とは無縁の世界。

「そんなのダメに決まっている」、「そんな権利は認められない」、「そんなことできるわけない」というのは一面的な見方です。

正反対の意見が説得力を持って語られ、私自身、常識や既成概念に強く縛られていることを思い知ることになりました。

ところで著者は、「法化」(=社会問題解決のため法律が増え、訴訟が増加する現象)によって、人々のコミュニケーションが法律に縛られ、私的自治が破壊され、人々が法律を盾にして他者と対立的に関わることしかできない世の中を作り出すと指摘。

「法律は社会に秩序をもたらすが、法律に頼り過ぎると人間の力を衰えさせる可能性がある」と語っています。

確かに法律は、私たちを守り、これまで顧みられなかった問題や、社会の新しい問題を解決してくれます。

ところが、セクハラやパワハラ、個人情報などでも明らかになったように、絶対視したり、解釈が度を過ぎたりすると、社会が窮屈になり、法律が足かせになることも事実です。

法治国家で法律は社会の基本となるルール。けれど万能・絶対ではないという認識を持っていないと、いつのまにか思いもよらないものになってしまうかもしれない。

そんな思いが募ってきました。