2020年21冊目の読書レポートは『塀の中の事情 刑務所で何が起きているか』(著 清田浩司/平凡社新書/初版2020年5月15日)。書店で目にして、手に取りました。
もう10年以上前のこと、勤めていた会社が法務省の推進する「PFI刑務所」(官民協働で整備・運営する刑務所)の運営事業に携わることになり、その関係で刑務所を見学したことがあります。
担当者から注意を受けた後、見学者同士で列を組み、ほとんど無言のままで見て回ったのですが、“塀の中”など生まれて初めて。
受刑者のすぐそばで刑務作業を見ていたときの何ともいえない緊張感は、今でも忘れることができません。
本書は、テレビ朝日で20年近く、全国で30か所以上の刑務所を取材してきた著者が、“刑務所で今起きていること”を綴ったルポルタージュ。
大規模施設、長期受刑者収容施設、開放的処遇施設(塀のない刑務所)、女子刑務所、医療刑務所、更生保護施設など15か所の施設の様子を、400ページを超えるボリュームで紹介し、刑務所の実情や受刑者の心情、また刑務官の思いを伝えています。
刑務所などまったく知らない世界。それだけに、刑務所が抱える様々な問題、無期懲役者の孤独な日々、塀のない刑務所での取組み、医療刑務所での摂食障害治療、そして受刑者のために奮闘する刑務官の姿…。
どれも強く心に残りましたが、とりわけ印象に残ったのは、「塀の中は社会を映す鏡」の言葉通り、刑務所でも起きている高齢化問題。
高齢の受刑者が同室の高齢受刑者を介助するという“老老介護”の様子、材料を細かく刻み柔らかくした調理した老人食、移動に欠かせない車椅子や手押し車(シルバーカー)…。
刑務所はあたかも介護施設のようであり、驚きを通り越して、切なさのようなものを感じてしまいました。
そして考えさせられたのは、高齢化とも関係する再犯問題。
2017年当時、受刑者の中で再犯者の割合は48%にも登り、犯罪者の数は減っても、再犯によって受刑者は「固定化」しつつあるそうです。
せっかく出所したのに、また舞い戻る理由は様々でしょう。けれど、受刑者に「(刑務所は)雨風しのげて、三度の食事も出て、布団にくるまって寝られて、ありがたい気持ちでいっぱいです。」と言わせるのは、どう考えてもおかしな話です。
出所者に対する風当たりが、それだけ冷たく厳しいということかもしれませんが、著者の指摘するように、刑務所が“安住の地”であったり、“終の棲家”であったりしていいはずがありません。
本書によると、東京オリンピック・パラリンピックを控え、国は再犯防止に向け、様々な対策を講じてきたようです。
それが実を結ぶためには、出所者の更生意欲はもちろん必要でしょう。
一方で、出所者やその家族に対する偏見や差別は人権問題であるという認識や、出所者を社会全体で支援する意識が広く共有されることも欠かせないものだと思います。