えむと、メモランダム

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『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』を読みました

仕事本

2020年24冊目の読書レポートは『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』(編 左右社編集部/左右社/初版2020年6月30日)。発刊をSNSで知り、買い求めました。

突如出現した新型コロナウイルスにより、生活は激変しました。

5月25日に全国で緊急事態宣言が解除され、一息ついたのも束の間、このところ東京の感染者は連日200人超え。

国は「緊急事態宣言を再び発出する状況ではない」と言っていますが、気がかりな日が続いています。

本書は、その緊急事態宣言が出された4月7日から下旬まで、有名・無名の“働く人”77人が書いた日記をまとめたアンソロジー。

店員、サラリーマン、ごみ清掃員、タクシー運転手、ミュージシャン、女子プロレスラー、ホストクラブ経営者、葬儀社スタッフ、教師、漫画家、小説家、医師、学者、落語家、占星術師…。

様々な職業の人たちが、コロナに翻弄される中で湧き起こってくる真情を吐露し、立ちはだかる困難に戸惑いながらも、何とか乗り越えようとした日々を綴っています。

緊急事態宣言が出たのは三か月前。世間は緊張と不安の中にあり、怒りや憤りといった感情が現われることもありました。

書かれた日記にも、同じような思いが溢れているのですが、印象に残ったのは、それでも何とか自分の心を整え、仕事を全うしようとする姿と、他人のことを思いやる気持ち。

辛いときだからこそ、普段忘れがちなことが意識され、これまでと違う行動に踏み出せるのかもしれません。

日記を読み終え、“災い転じて福となす”の言葉を思い出しました。

ところで、日記ではたくさんの印象的なフレーズに出会います。

「怖いからと言ってごみの収集を止める訳にはいかないので、責任感の一点で回収を続ける。」(ごみ清掃員)

「SNS上やネットニュースのコメント欄にはコロナウイルスの恐怖によって行動の一つ一つに妙な監視が付いているような気がする。」(タクシー運転手)

「ばたばたと日常が閉じていく感覚にまいってしまいそうになるところを、私たちは“仕方ない”という言葉をおまじないのように口にしてなんとか立っている」(女子プロレスラー)

「引きこもれば引きこもるほど自己中心的になっていく感覚がある。頭に浮かぶのは、自分の不安ばかりだ」(ピアノ講師)

「時給で働くヘルパーも、おれのような常勤で働いている人間も、日々ギャンブルでもしてるみたい。」(介護士)

「失職や減給、そして感染におびえながらも補償がないために働くしかない人たちの叫びが響き渡るこのタイミングで動画を出してくる意図を、多く人々と同じく私も理解できなかった。」(漫画家)

「あたりまえと思っていることのほとんどが、誰かのおかげで成り立っていることをふだんからもっと意識しなくてはと反省する。」(小説家)

「まだ毎日電車に乗っている。命をかけた戦場に出かける気持ちになり怖い。命をかける仕事なのだろうかと、悩んでしまう。」(俳優)

「ウイルスは生物学的な身体領域を超えて、社会的な存在である人間のコミュニティに潜在する様々な問題をあぶり出していく。」(振付家)

「自分もギリギリのメンタルと体力で働いているからか、子どもたちと遊んでいて泣きそうになった。もう、どの子も限界です。そう声を出して言いたい。あと1日、みんなで頑張ろうね。」(保育士)

共感とともに、あの頃のことがしっかりと胸に刻まれていきます。