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『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』を読みました

AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争 (光文社新書)

2020年28冊目の読書レポートは『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(著 庭田杏珠 渡邉英徳/光文社新書/初版2020年7月30日)。書店で目にして手に取りました。

8月6日は広島の、今日9日は長崎の「原爆の日」。そして15日は「終戦の日」。

日本の8月は祈りの月であり、平和について考える月ですが、戦後75年が経ち、社会の関心は薄れているように思えてなりません。

本書は、広島出身で東大生の庭田杏珠さんと、東京大学大学院情報学環の渡邉英徳教授の共同プロジェクト「記憶の解凍」の成果をまとめた写真集。

このプロジェクトは、「広島に生まれた者として“被爆者の想い”を受け継ぎ、伝えていきたい」と考えていた庭田さんと、情報デザインとデジタルアーカイブによる“記憶の継承”について研究している渡邉教授の出会いから始まったとのこと。

AI(人工知能)と人のコラボレーションで、戦前から戦後にかけてのモノクロ写真をカラー化し、対話の場を生み出すことに取り組んでいるそうです。

本書に収録されているのは、戦前の広島・沖縄・国内の様子、開戦から太平洋戦線、沖縄戦・空襲・原爆投下、そして戦後の復興の姿を撮影した写真約350枚。

写真はAIで自動カラー化した後、当時を知る人の証言や資料をもとに手作業で彩色し、仕上げられたものです。

渡邉先生は、「モノクロ写真には無機質で“凍りついた”印象があり、これが戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っている」と語っています。

なるほど、私たちは、白黒で写された世界を別の世界のことだと思って見ているのかもしれません。

ところが、その凍りついていた過去の時は、カラー化で見事に“解凍”されます。

今と変わらない楽しげな日常の風景とそれを打ち砕く戦争の惨禍。遠い過去のものになりつつある“戦争の時代”がリアルに甦り、自分ごととなって迫ってきました。

収録されている写真にはどれも心を奪われましたが、特に印象に残ったのは次の4枚。

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広島市内で撮影された、スイカの赤い色が鮮やかな「夏のだんらん」。
これから13年後に原爆が投下されます。それだけに写っている笑顔に、心は暗くなってしまいます。(写真提供 高橋久)

 

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特攻機で出撃するわが子を、手を振って見送る父と母、そして二人の妹。(右から4人目より父、妹、母、妹)
家族はいったいどんな思いで見送ったのか、考えるだけで胸が押しつぶされてしまいます。(写真提供 朝日新聞社)

 

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広島に投下された原子爆弾のきのこ雲。
映画監督の片瀬須直さんの指摘で、白い雲が不気味なオレンジ色に。この雲の下で、一瞬にして幾多の尊い命が奪われたかと思うと、言葉が出てきません。(撮影 尾木正己)

 

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終戦直後にマーシャル諸島で撮影された日本兵。
あばら骨が浮き出たガリガリの体に切ないものを感じます。日本兵は多くの戦地で、飢えと戦っていたという事実をまざまざと示すものです。

ところで、庭田さんはまだ19歳。まだ若いですが、その深い想いと、それを結実させた行動力には頭が下がります。

「アートやテクノロジーを活かして、これまで関心のなかった人にも、原爆や戦争・平和について、自分ごととして想像してほしい。」

「そして、それぞれが感じた戦争体験者の“想い・記憶”が共感の輪とともに社会に拡がり、未来へ受け継がれていく。これが、今の私にできるあたらしい伝え方です。」

本書に込めたこの庭田さんの想いが、多くの人に届くことを願ってやみません。