えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『自民党 価値とリスクのマトリクス』を読みました

f:id:emuto:20200921204602j:plain

(装丁 矢萩多聞)

2020年34冊目の読書レポートは『自民党 価値とリスクのマトリクス』(著 中島岳志/スタンド・ブックス/初版2019年6月21日)。

安倍政権の突然の終焉は晴天の霹靂。総裁選の様子が伝えられ、先行きが気になっていたところで本書のことを知り、手に取りました。

本書は、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授で、近代日本政治思想が専門の著者が、自民党の有力政治家(首相候補)9人の特徴を分析し、自民党政治の姿を明らかにするもの。

著者は、それぞれの著書やインタビュー記事などを読み込み、政策やビジョンを「リスクの問題」と「価値の問題」を指標として分析し、「リスク」を縦軸、「価値」を横軸にしたマトリクス表で4つのタイプに分類していきます。

ちなみに、「リスクの問題」とは、様々なリスクは社会で対応すべきという立場か、それとも個人責任とする立場なのか。

「価値の問題」とは、パターナル=権威主義的なのか、それともリベラル=多様性に対し寛容なのかということです。

本書に登場するのは、安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤信勝、小渕裕子、小泉進次郎の各氏。

安倍さんを除けば、半数以上が今回の総裁選に出馬した人、または出馬が取り沙汰された人です。

それだけに、著者が示す各人のスタンスの違いや、政治家になったいきさつは興味深いもの。

普段、政治家をイメージでしか見ておらず、具体的な政策やビジョンをほとんど知らないことに改めて気づかされました。

著者によれば、安倍さんはもちろん「アンチ・リベラル」で、「リスクの個人化」を志向。

f:id:emuto:20200921205014j:plain

(P34掲載 安倍氏のポジション)

「安倍さんは、相手の見解に耳を傾けながら丁寧に合意形成を進めるのではなく、自分の正しさに基づいて“論破”することに価値を見出している」との指摘には、「なるほど」と思わざるを得ませんでした。

そして菅さんは安倍さんほどではありませんが、やはり「パターナル」で「リスクは個人化」。

ただ菅さんは、ポピュリズム的政策を打ち出すことを得意としていて、人事権の掌握を重視していることが大きな特徴。

携帯電話料金の値下げ、デジタル庁の新設、また人事に関する発言など、総理・総裁就任直後からの言動は、なるほどそれを言い当てています。

その菅さんに比べると、石破さんはややリベラルでいわゆる“新自由主義”。

岸田さんは立場が明確でなく、巧に衝突を避けながら地位を獲得してきた人とのこと。

菅、石破、岸田3氏に飛びぬけて大きな違いは感じませんでしたが、菅さんが発言して話題になった「自助・共助・公助」や「消費税の増税」については、石破さんもかねてから「自助」を基本とし、「増税」を主張していたことを、本書で初めて知りました。

一方、野田さんは安倍さん菅さんとは正反対のポジションで、おそらく自民党では少数派。

河野さんは石破さんに近く、加藤さんは価値についてスタンスがはっきりせず、小渕さんと小泉さんは、まだまだこれからというのが、著者の見立てです。

それにしても、これだけ多様な考えを持った人が一緒にいるというのは野党ではあまり考えられず、これが自民党の強さでもあるのでしょう。

もっとも著者によれば、かつては“中道保守”であり、「リスクの社会化」を基調としていた自民党は、今や「リスクの個人化」「パターナル」路線となり、それは今後加速する可能性があるそうです。

野党としては、その方が違いを打ち出せて挑みやすいのでしょうが、菅さんの強みが発揮されたせいか、菅内閣発足直後の支持率は歴代3位。

安倍政治の継承を謳っていますが、これからの舵取りで、“菅カラー”が強まっていけば、やりにくい相手になるのかもしれません。

ただいずれにしても、対立を煽ったり、反対意見を無視したり、都合の悪い事実を隠したりする政治はまっぴらごめん。。

少数意見を汲み取り、社会的弱者にも目配せしながら丁寧に議論を重ね、合意形成に尽力してほしいものです。