えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『非国民な女たち』を読みました。

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2020年43冊目の読書レポートは『非国民な女たち』(著 飯田未希/中公選書/初版2020年11月10日)。書店で目にして手に取りました。

「贅沢は敵だ」と「欲しがりません勝つまでは」は戦時中の戦争標語として、よく知られています。

そして「パーマネントはやめましょう」も、この時代を表すものとして、人口に膾炙した言葉です。

本書は、立命館大学教授で社会学、文化研究を専門とする著者が、節約と自粛が求められた戦時下おける「女性の髪形と服装」という女性ならではの視点から、ひと味違う歴史を掘り起こしたもの。

著者は、戦時中の文献や資料を丹念に読み解き、当時の写真を数多く示しながら、「非国民」と非難・中傷されながらもパーマをかける女性たち、モンペには見向きもせず服装にこだわる女性たち、そしてそんな女性たちのために奮闘する美容師や洋装家の姿を映し出し、当時の社会の様相を明らかにしていきます。

戦争標語のイメージが強いせいか、戦時中の女性はパーマなどかけることはなく、またスカートなど身に着けず、モンペを多用していたと思い込んでいました。

ところが本書によれば、幾度もパーマネント禁止が呼びかけられたにもかかわらず、女性たちのパーマネントを求める気持は衰えず、大都市だけでなく、地方でも美容院は繁盛。

モンペは不人気で、東京では1943年頃でも、「ハイヒールにスカート」といった女性がまだ相当数いた。

思いがけない事実に、長年の思い込みや戦時中のイメージは見事に覆されてしまいました。

パーマ機が供出されて木炭パーマに代わっても、配給の木炭(本来は料理に使われるべきもの)を手に美容院に並んだとか、空襲警報が鳴っても防空壕の中でパーマをかけたといったエピソードは驚くばかり。

女性の“美しさを求める心”は、戦争も脇に追いやってしまうほどですが、不安な時代だからこそ、違う方向に気持ちが向かうということは、あるかもしれません。

一方、美容業界の団体を結成したり、戦時にふさわしい髪型や婦人服を考えたりして、困難を乗り越えようとする美容師や洋装家の姿も印象的。

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(本書 P66)

女心に応えたいということもあったでしょうが、戦争に協力する姿勢を示さなければ生き残れない時代であったことが、よくわかります。

ただそんな時代であっても、パーマネントを擁護する読者投稿が新聞に掲載される。岩手ではパーマネント事業者が婦人会と対決して勝利する。女性教諭が厚生省に出向き、国の制定した婦人標準服を「みすぼらしい」とねじ込む…。

同調圧力は相当強いはずなのに、「右へならえ」の号令には反発もあったということで、よく言われる“戦時一色”とは異なる面が社会にはあったということも、本書で知ることができました。

世の中には知られていない歴史がたくさんあり、その中にこそ真実がつまっていそうです。