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『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』を読みました。

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2021年10冊目の読書レポートは『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』(著 石井光太/新潮社/装幀 矢萩多聞/初版2020年11月25日)。

HONZに掲載された東えりかさんの紹介記事を読み、手に取りました。

本書は、2016年に、大阪・鶴見に開設された日本で最初の民間小児ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」にまつわるノンフィクション。

ホスピスというと、末期ガンの患者が最期を過ごす場所というイメージですが、この施設はまったく違うもの。

難病の子供たちが、短い時間であっても治療の場から離れ、家族や友人と笑い合って、生涯忘れえぬ思い出をつくるための“家”としてつくられたました。

本書では、「半日でもいいから、社会にもどってごく普通の日常をすごしたい」という子供たちの願いを叶えるため、ホスピスの建設に奔走する医師や関係者、辛い治療に耐えながら懸命に生きようとする子供たち、そして難病の子供に寄り添う親の姿が、幾重にも重なりあって描かれています。

ホスピスが生まれるきっかけは、二人の医師の思いから。それが多くの人に波及して大きな輪となり、医療現場の慣習や資金の工面といった様々な困難を乗り越えながら、6年かけて結実する様子は、まるでドラマのよう。

また、開設してからも、子供たちや家族に“友”として寄り添い、“短くとも、深く生きる”ことをサポートするために、スタッフが試行錯誤を繰り返す姿も印象的でした。

施設の代表である高場秀樹氏の「私たちが目指すのは、ホスピスが目立つことではなく、難病の子供が伸び伸びと生きていける社会をつくること」という言葉は心に響きます。

一方、難病の子供たちと家族の話は胸に迫るものばかり。
闘病の甲斐なく短い人生を終える子供たちの姿はせつなく、そんなわが子を思う親の心情は、察するに余りあるものがあります。

その中で特に印象に残ったのは、中学2年で肋骨の悪性腫瘍を患い、18歳で亡くなった久保田鈴之介さんのエピソード。

過酷ともいえる治療に苦しんでも、病室の外では明るく振る舞い、他の患者に励ましの声をかけるどころか、大学進学の夢を最後まであきらめず体力を振り絞って大学センター試験を受ける姿に、目頭が熱くなりました。

本書には、ホスピスの芝生に立てられたパラソルの下で、やがて亡くなる幼い男の子とその両親が、ピクニック気分で食事をしている印象深い写真が掲載されています。

日本には小児ガンなど難病の子供が15万人もいて、そのうち2万人が命を脅かされているとのこと。

写真を見て、「幸せな日常」を過ごせる場所が、日本中もっとできないものかと思わずにはいられませんでした。