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読んだ本と出来事あれこれ

『ルワンダ中央銀行総裁日記』を読みました。

ルワンダ中央銀行総裁日記 [増補版] (中公新書)

2021年16冊目の読書レポートは『ルワンダ中央銀行総裁日記』(著 服部正也/中公新書/初版1972年6月25日)

50年前に発刊された本が、今話題を集めていると知って、手に取りました。

本書に限らず、ロングセラー本というのは数多くありますが、初版から半世紀経ってベストセラーランキングに登場するというのは驚きです。

本書は、1965年(昭和40年)、国際通貨基金の要請で、アフリカの小国ルワンダの中央銀行総裁に就任した著者が、経済の立て直しに奔走した6年間の日々を振り返ったもの。

日本銀行の職員だった著者は、46歳のときに、ベルギーから独立して間もないルワンダに赴任。

大幅な財政赤字、主要産業は生産性の低いコーヒーと錫鉱石の輸出だけ、質の低い役人と外国人顧問、既得権益にすがりつきルワンダ人に偏見の目を持つ欧米人…。

想像を絶する厳しい状況でしたが、大統領の信頼を得た著者は、平価切下げを始めとした経済改革を断行して経済再生に目途をつけ、さらに倉庫会社やバス公社の設立といったインフラ整備なども手がけ、発展への道筋をつけていきます。

仕事を“公”のものとして考え、どんな苦境の中でも諦めず、常に現場主義で臨む姿勢。

高い先見性と深い洞察力、相手が誰であろうと決してひるまない卓越した交渉力と、その裏付けとなる実務能力。

改革の原動力となった“ルワンダ人のため”という強い信念と、日本銀行の職員であるというプライド。

ルワンダ人だけでなく、多くの欧米人からも寄せられる信頼。

とても40代の人の仕事とは思えず、数々の困難を乗り越え、自分の使命を果たそうとする姿は、強く心に残ります。

当初は5か月の約束が6年間の滞在となり、最後は留任運動まで起きたそうですが、仕事の成果と厚い人望からすれば、当然といえるでしょう。

ちなみに、ちょっと面白かったのは、著者が、よく怒っていること。
「私は腹が立った。畜生…」、「…外国銀行の傲慢な態度に腹が立ってしかたがなかった。」、「私は正直なところ内心ムッとした」、「話を聞いて私は憤慨した。」

この率直さが、著者の人柄をしのばせますが、一時は腹が立っても、すぐに冷静になって、きちんと対抗するのが凄いところ。

“理不尽なことへの怒り”が気持ちを奮い立たせ、改革を後押ししたかもしれません。

ところで著者は、子供の将来を考えて、あえて妻子と共にルワンダに渡っています。

奥様は、生活環境の違いにかなり衝撃を受けたようですが、一言も愚痴を言わず、相当な努力で日々の暮らしを切り盛りしたそうです。

奥様がいてこそ、著者も仕事に打ち込むことができたともいえ、今はすっかり聞かなくなった、「内助の功」という言葉が頭に浮かんできました。