えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『土葬の村』を読みました。

土葬の村 (講談社現代新書)

2021年11冊目の読書レポートは『土葬の村』(著 高橋繁行/講談社現代新書/初版2021年2月20日)。書店で目にして手に取りました。

これまで、実父、義父、叔父二人の火葬に立ち合いました。遺骨を見て、無常観のような、なんとも言えない感情を覚えたことが思い起こされます。

本書は、ルポライターで葬儀に関する著書を多数執筆している著者が、日本では消えつつある土葬の話を中心に、日本の弔いの文化について著したもの。

自身の取材や文献などをもとに、土葬と野辺送り、野焼き火葬、与論島での葬儀(風葬・土葬)について取り上げて、知られざる風習を明らかにするとともに、弔いにまつわる珍しい話の数々を紹介しています。

「土葬・野辺送り」は、日本の伝統的な葬式とのことですが、現在日本の火葬率は100%に近く、私は見たことも経験したこともありません。

それだけに、棺桶の形・寸法、葬具、供物、衣装、墓穴の掘り方、葬列の進行…。伝え続けられてきた葬儀の様子や、地域や宗派によって異なる様々な“決まり事”に興味は尽きませんでした。

ただし、墓穴に猟銃を打ち込んだり、四十九日に墓をあばいて棺のふたを割ったりする風習は、さすがにびっくりするもの。理由はあるようですが、あまりに奇妙です。

また、昭和30年代半ば頃まで行われていたという野焼き火葬の様子や、与論島の風葬の話にも驚きましたが、やはり、今でも土葬を行う地域があることは思いもよらないもの。

土葬は“業者まかせ”ではできないので、手間がかかり大変ですが、住民の土葬への思い入れが強いことも印象に残りました。

長く守り続けてきたことを、簡単には絶やしたくないという気持ちが強いのかもしれません。

お寺の住職が語った「七十年間田んぼや畑を耕し村のつきあいをしてきたおばあさんを、葬儀会館のお葬式で一瞬に送るのは、どうしてもなじめない。みんなで“ムダ”をいっぱいして故人を送ことが供養になる」という言葉は、死者を弔うことの意味を考えさせるものです。

ところで本書では、市民グループが立ち上げた「土葬の会」のことが紹介されています。

会員は「人間は死ぬとみな土に還る」という考えのもと、土葬を希望するようです。

今の日本では、土葬はかなり難しいことですが、条件が整い、遺族に負担がかからなければ、選択肢のひとつになるかもしれません。

『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』を読みました。

f:id:emuto:20210316211948j:plain

2021年10冊目の読書レポートは『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』(著 石井光太/新潮社/装幀 矢萩多聞/初版2020年11月25日)。

HONZに掲載された東えりかさんの紹介記事を読み、手に取りました。

本書は、2016年に、大阪・鶴見に開設された日本で最初の民間小児ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」にまつわるノンフィクション。

ホスピスというと、末期ガンの患者が最期を過ごす場所というイメージですが、この施設はまったく違うもの。

難病の子供たちが、短い時間であっても治療の場から離れ、家族や友人と笑い合って、生涯忘れえぬ思い出をつくるための“家”としてつくられたました。

本書では、「半日でもいいから、社会にもどってごく普通の日常をすごしたい」という子供たちの願いを叶えるため、ホスピスの建設に奔走する医師や関係者、辛い治療に耐えながら懸命に生きようとする子供たち、そして難病の子供に寄り添う親の姿が、幾重にも重なりあって描かれています。

ホスピスが生まれるきっかけは、二人の医師の思いから。それが多くの人に波及して大きな輪となり、医療現場の慣習や資金の工面といった様々な困難を乗り越えながら、6年かけて結実する様子は、まるでドラマのよう。

また、開設してからも、子供たちや家族に“友”として寄り添い、“短くとも、深く生きる”ことをサポートするために、スタッフが試行錯誤を繰り返す姿も印象的でした。

施設の代表である高場秀樹氏の「私たちが目指すのは、ホスピスが目立つことではなく、難病の子供が伸び伸びと生きていける社会をつくること」という言葉は心に響きます。

一方、難病の子供たちと家族の話は胸に迫るものばかり。
闘病の甲斐なく短い人生を終える子供たちの姿はせつなく、そんなわが子を思う親の心情は、察するに余りあるものがあります。

その中で特に印象に残ったのは、中学2年で肋骨の悪性腫瘍を患い、18歳で亡くなった久保田鈴之介さんのエピソード。

過酷ともいえる治療に苦しんでも、病室の外では明るく振る舞い、他の患者に励ましの声をかけるどころか、大学進学の夢を最後まであきらめず体力を振り絞って大学センター試験を受ける姿に、目頭が熱くなりました。

本書には、ホスピスの芝生に立てられたパラソルの下で、やがて亡くなる幼い男の子とその両親が、ピクニック気分で食事をしている印象深い写真が掲載されています。

日本には小児ガンなど難病の子供が15万人もいて、そのうち2万人が命を脅かされているとのこと。

写真を見て、「幸せな日常」を過ごせる場所が、日本中もっとできないものかと思わずにはいられませんでした。

『首都直下地震と南海トラフ』を読みました。

首都直下地震と南海トラフ (MdN新書)

2021年9冊目の読書レポートは『首都直下地震と南海トラフ』(著 鎌田浩毅/Mdn新書/初版2021年2月11日)。書店で目にして手に取りました。

東日本大震災から今日で10年。地震、津波、それに続く原発事故はついこの間の出来事のよう。忘れることはないでしょう。

本書は、京都大学教授で、火山学、地球変動学を専門とする著者が、日本列島でこれから起きるであろう地震や火山噴火について明らかにし、私たちの“生き延び方”を説くもの。

女優の室井滋さんとの対談をイントロダクションとして、「東日本大震災の余震」、「直下型地震(首都直下地震)」、「南海トラフ巨大地震(西日本大震災)」、「富士山噴火」について、その発生のメカニズムと危険性をわかりやすく解説。

さらに、迫りくる大災害にどう向き合い、どう振る舞っていくべきか、著者の考え方が示されています。

東日本大震災以降10年くらいは、同じ震源域でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生するリスクがある。(先月震度6強の余震が発生し、ちょっと驚きました。)

東日本の内陸部では、首都圏も含め直下型地震が起きる可能性が高まっている。

東海地震、東南海地震、南海地震が連動する巨大地震は、2040年頃(遅くとも2050年)までには発生する。

火山噴火のリスクが高まり、富士山が噴火する可能性も否定できない。

「1000年に1度の大変化の時代に突入している」という言葉は、決して誇張ではないことがよくわかり、気持ちは穏やかではありません。

けれど著者は、天変地異を怖いものとしてただ怯えるのではなく、長い目(長尺の目)で、興味深い歴史と地理と自然の数々を発見していくような視座を持ち、“しなやかに生きる”ことが大切だと語っています。

ともすると、地震の多さを恨み、日本人の宿命を嘆いてしまいますが、はるか昔に起きた地震がもたらした“恵”(言葉にちょっと違和感ありますが)を知ると、考え方も少し変わってきそうです。

ところで本書では、地球科学にも関連して、著者の印象的な言葉に出会います。

「9割の無意識が人生を決めている。ごちゃごちゃ考えず、自分の感性や直感に従って、“流れ”に身を任せてみる」

「“万が一”という言葉が頭の中をよぎったときには、“九九九九の可能性”を同時に思い浮かべるようにすれば、豊かな人生を送るための切符を手に入れられる」

残念ながら、もう自分の人生を思い悩むような年齢ではありませんが、大切な残り時間のために忘れないでいようと思っています。