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『ポピュリズムとは何か』を読みました

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)

2017年25冊目の読了は、『ポピュリズムとは何か』(水島治郎/中公新書 初版2016年12月25日)です。何と言っても、現在の国際政治で注目される事象であり、ぜひ読んでみたいと思い、手にとりました。

本書では、ヨーロッパ政治史、比較政治が専門の著者が、ポピュリズム成立の背景、南北アメリカとヨーロッパにおける伸張の実態と政治的影響力などを分析して、その功罪を明らかにしています。

民主主義が根付いているヨーロッパ先進各国で、ポピュリズム政党が多くの人の支持を得て躍進しているはなぜなのか、イギリスの国民投票で離脱賛成派が勝利したのはなぜなのか、トランプ氏が大統領選で勝利したのはなぜなのか、新聞やテレビの報道だけではわからなかったことが、本書を読んでよくわかります。また、オランダやフランスといったポピュリズムではよく知られた国だけでなく、デンマークやスイスといった日本人の感覚からすると、ポピュリズムとは縁遠いと思われるような国々でも、ポピュリズム政党に対する支持が広がっていることを本書で初めて知り、とても驚きました。

本書では、橋下徹氏と大阪維新の会を取り上げ、日本にもポピュリズムの波が押し寄せているとしています。日本には、欧米におけるポピュリズムの躍進の要因となっている、移民や雇用といった問題はほとんど見当たりませんが、所得の格差、地方の衰退など、形を変えた社会問題が横たわっています。既存の政党が、これらの問題解決をしていかないと、今後日本においても、ポピュリズムの波はもっと大きくなるかもしれません。橋下氏が政界を引退した後も、アンチ東京の色合いが強い大阪で、依然として維新に強い支持があることは、それを暗に物語っているように思われます。

これまで、ポピュリズムというと「大衆迎合主義」という言葉しか頭に浮かばず、民主主義に楯突く良からぬものというようなイメージしかありませんでしたが、本書を読んで、その考えがちょっと変わりました。政治をより良い方向に導く、トリガーとなることを期待できるかもしれません。

しかし、ポピュリズムに排他性があることは否めず、議論しながら意見をまとめていくという民主主義の大事なプロセスも軽視しがちなところがあります。さらに、一歩間違うと、コントロールできなくなり、全体主義的な傾向に陥る危険性もあります。また、ポピュリズム政党の主張する政治で、本当に雇用が確保され、生活が安定し、経済が上向くのか、まだ明確な答えは出ていないといってもいいでしょう。ポピュリズムに対する懸念はそう簡単には払拭できないのも、また事実です。

ポピュリズムは熱狂をもたらしますが、それに乗せられて踊ることなく、冷静に見極めていくことが、これから多くの人に求められるのだと思います。

読後感(とてもよかった)