えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『月日の残像』を読みました

月日の残像(新潮文庫)

2017年62冊目の読了は、『月日の残像』(山田太一/新潮文庫 初版平成28年6月1日)です。この前に読んだ『過去をもつ人』(著 荒川洋治)で、「エッセイ集の真価を示す一冊」と紹介されていた本で、ぜひ読んでみたいと思い手に取りました。休刊になってしまった新潮社の『考える人』で連載された山田さんのエッセイが9年間分35編収録されたもので、2013年に単行本で出版されています。

山田さんは、このエッセイで自身の幼少期の記憶、学生時代や助監督時代の思い出、木下恵介、寺山修司といった人たちとの交流などを取り上げて自らの人生を回想し、一方で移り行く時代のなかで老いを意識する日々を、ユーモアも交えながら書いています。どの話も味わい深く、読み応えがあったのですが、結核で死んだ兄のことを書いた「三男と五男」、土下座のエピソードから母の葬儀に話が展開する「下積みの記憶」、12歳年上の兄との思い出を書いた「ビールの夜」など、家族をテーマにしたものは心にしみました。

私の場合、山田太一と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、鶴田浩二、水谷豊、桃井かおりが出演したNHKドラマ『男たちの旅路』。放送のある土曜日を楽しみにしていました。他にも、笠智衆が出演した『ながらえば』『冬構え』『今朝の秋』といった一連の作品も忘れられないものですが、どれも押し付けがましくなく、人間というものをありのままに描いていることが、見る人の心を打つのだろうと思います。本書で山田さんの率直で飾らない人柄(それは山田さんの生い立ちが影響していると思われますが)を知って、その理由が何となくわかったような気がしました。

山田さんと私とは年齢が二回りほど違いますが、私もあと10年もすれば山田さんがこのエッセイの連載を始めた齢に近づいてしまいます。そのときに、自分は人生の残像として何を思い起こすのだろうか、どんな風に老いを感じているのだろうか、本書を読んでそんなことがふと頭をよぎりました。

読後感(とてもよかった)