えむと、メモランダム

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『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』を読みました

校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術

2017年95冊目の読了は、『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞校閲グループ/毎日新聞出版 初版2017年9月5日)です。広告で本書のことを知り、買い求めました。

本書は、毎日新聞の校閲記者が普段どのように新聞記事の校閲を行っているのか、「誤字・異字同訓」、「数字・単位・記号」、「事実誤認・覚え違い」、「表現のニュアンス」、「固有名詞」、「文脈・文法」のテーマごと(章ごと)に、実際に校閲された原稿の写真を示しながら紹介したものです。

本書を読むと、校閲記者たちが何に気をつけて原稿を読んでいるのか、どのように原稿を修正するのか、仕事の様子を具体的に知ることができます。
レシピに書かれた鶏肉を切る大きさの単位が“センチ”ではなく“ミリ”でないかと気づいたり、生姜は熱を加えれば“ピリ辛”にならないのではと疑問に思ったり、漫画に描かれた「うまか棒」(これはアイスキャンディ)をリュックに詰める場面を見て、スナック菓子の「うまい棒」の間違いではないかと気づいたり、「オニヒトデ」のイラストの違和感を気にしたりと、とにかくプロの仕事はさすがだと感心させられることばかりでした。

校閲のうち「校」はルールを理解していればある程度はできるのかもしれませんが、「閲」は広い分野に渡る知識、見識と経験、そして何より鋭い問題意識がないとできない仕事に違いありません。

本書は校閲の仕事の紹介だけでなく、文章作法の本でもあります。「一人前」と「1人前」の使い分け、年数の数え方(4月1日生まれが何で早生まれになるのか本書で初めてわかりました)、「激を飛ばす」や「雨模様」の本来の意味、「思う」と「想う」の違いなどあげたら切りがありませんが、文章を書くうえで参考になるところが数多くありました。

間違いがなくて当たり前。しかもそれが毎日求められるというのは相当大変そうです。しかし、恨みつらみを言うこともなく、仕事への誇りと責任を持ちながら、そしてときに葛藤しながら校閲を進めていく姿は印象的です。
本書の最後に、校閲記者で歌人でもある沢村斉美さんが詠んだ、仕事に関係する短歌が紹介されています。その中で『声のなき涙ながれてゐる頬をあやしみてぐつとゲラへうつむく』という一首は、(恐らく東日本大震災の)痛ましい記事に接した後でも、感情に流されず自分の仕事を遂行しようとする校閲記者の姿が目に浮かんできて、強く心を打ちました。

本の内容とは関係ありませんが、このブログを校閲してもらったらどれほど修正されるのか、とても興味があります。

読後感(感心した)