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『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』を読みました

戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)

2017年96冊目の読了は、『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』(井上寿一/講談社現代新書 初版2017年11月20日)です。書店で目にして手に取りました。

本書は、敗戦直後の幣原内閣で、開戦・敗戦の原因と実相を明らかにするために設置された国家プロジェクト『戦争調査会』の刊行資料(全15巻)を、政治外交史の専門家で学習院大学長でもある著者が読み解き、戦争を止められなかった原因を検証したものです。

全体は二部構成になっていて、第一部では調査会が設置されるまでの背景、調査会の議論、そして調査会の結末までを紹介。第二部では調査会の資料を参考にしながら、戦争の起源を考え、満州事変から日米開戦までを辿るなかで戦争回避のチャンスを検討し、そして戦争の実態を見ていきます。

『戦争調査会』の存在は以前読んだ本で知っていましたが、設置までの経緯や具体的な活動内容は本書で初めて知りました。40回以上の会議や政治家、軍人、官僚などへのインタビューなど意欲的な活動は目をひきます。GHQの意向で活動が中止に追込まれたのは、関係者にとってはさぞかし残念なことだったでしょう。

本書では刊行資料をもとに、様々な人たちの話が紹介されていて興味深かったのですが、調査会の委員だった渡辺銕蔵・元東京帝大教授の「世界経済のブロック経済化が戦争の直接的な原因ではない」「領土拡張ではなく経済的発展でよかったはず」という話や、戦争の協力者とも言われた徳富蘇峰が、近代日本の中国認識を批判しているのは、印象的でした。

また本書を読むと、戦争回避のチャンスが何回もありながら、そして戦争になれば極めて厳しい状況に陥るのがわかっていながら、国内政治の動き、国際情勢の変化、個人的な野心や面子、根拠のない希望的観測、国民の意識・感情などが複雑にからみあってしまい、戦争を回避できなかったことがよくわかります。そして戦争が始まってからも、戦争をどう終わらせるのかビジョンがなく、戦局が絶望的になっても誰も戦争終結を言い出せず、その結果多くの命が奪われることになってしまいます。よく言われることですが、得体の知れない“空気”にただ動かされているような感じがしてなりませんでした。

結局、開戦・敗戦の原因について『戦争調査会』としての明確な結論はないわけですが、それは「戦争のことを忘れるな」「戦争のことを考え続けろ」という後世へのメッセージなのかもしれません。

読後感(考えさせられた)