えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』を読みました

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2018年最初の読了は、『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』([著]アトゥール・ガワンデ [訳]原井宏明/みすず書房 初版2016年6月24日)。買ってそのままになっていたので、この休みに読むことを楽しみにしていました。

本書は、ハーバード大学医学部の教授である著者が、実際に取材した高齢者介護の現場や外科医として立ち会った終末期患者の治療の現場などを紹介し、そのうえで誰にも必ず訪れる「死」をどのように迎えるのか、自らの思いを綴り、また読者に問いかけているものです。

人生の最後にふさわしい場所とはとてもいえない高齢者介護施設と、それに疑問に思い自ら施設を立ち上げる人。ペットを飼うことで生きる理由が見つかり、生気を取り戻す高齢者。母親になってすぐに末期がんを宣告され、過酷ともいうべき治療に耐える女性とそれを支える人たち。自分の父親の終末期をいかにすべきか悩み、奔走する著者。次々に繰り出される医療技術と投与される薬の数々。息を飲み、驚き、そして胸に迫るエピソードが続きますが、“今を犠牲にして未来の時間を稼ぐより、今日を最善にすることを目指して生きる”方が、結果的に、いい効果をもたらすことがあるという事実は、強く心に残りました。

もっとも、“今日を最善にする”ために、提示された選択肢からどれを選ぶのか、どこまでは我慢できて絶対に譲れないものは何か、少ない情報と経験したことがない極限状態の中で、決断していかなければならない場面が何度も訪れるというのは、想像できないくらい大変なことであり、重いものに違いありません。

著者は、現代のハイテク社会では「死にゆく者の役割」が臨終で果たす重要性を忘れていると指摘して、次のように語っています。“死にゆく人は記憶の共有と知恵や形見の伝授、関係の堅固化、伝説の創造、神と共にある平安、残されて人たちの安全を願う。自分自身のやり方で自分のストーリーの終わりを飾りたい。調査によれば、この役割は死にゆく人にとっても残される人にとっても人生を通じてもっとも重要なことである”

本書でも、この「死にゆく者の役割」を果たそうとしたピアノ教師の話や著者の父親の話が出てきます。できれば自分もこうありたいと願ってしまいますが、そのためには、いかに死ぬかだけでなく、そのときまでどう生きていくかについて考えることも大きな意味を持つのだと思います。

深いテーマでしたが、新年のスタートにふさわしい本でした。

読後感(よかった)