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『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』を読みました

英国公文書の世界史 - 一次資料の宝石箱 (中公新書ラクレ)

2018年26冊目の読了は、『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(小林恭子/中公新書ラクレ 初版2018年3月10日)。成毛眞さんの“つぶやき”で本書のことを知り、買い求めました。

本書は、在英のジャーナリストである小林さんが、ご自身の調べもののために足しげく通う「英国国立公文書館」に保管されている公文書を取り上げて、それにまつわるエピソードを綴ったものです。

この公文書館には、11世紀以降のイギリス国民のために作成された文書が1100万点以上保管されていて、「見たい」といえばいつでも見られるようにしてあるそうです。歴史の古さやその量はもちろんですが、保管している「文書」は紙の書類だけではなく、証印、地図、布見本、写真、絵画、手紙、メモ、落書き、髪の毛、電報、メール、さらにはネズミのミイラまであるそうで、驚いてしまいます。

本書で小林さんが紹介している文書は、最古の公文書である「ドゥームズデイ・ブック」と呼ばれる土地台帳、有名な「マグナ・カルタ」、ヘンリー8世の「結婚無効の通知書」、「シェイクスピアの遺言書」、世界初の郵便切手「ペニー・ブラック」、「切り裂きジャックが書いた手紙」タイタニック号の「SOSメッセージ」、英仏の極秘協定「サイクス=ピコ協定の地図」、エドワード8世の「退位証書」、チャーチルが書いた「欧州分割案のメモ」など28点。その中には、夏目漱石の「下宿記録」、広島・長崎の「原爆投下の報告書」、駐日英外交官が書いた「ビートルズ来日の報告書」など日本に関するものも5点含まれています。

写真ですが文書の実物を見ることができて、それだけでも興味深かったのですが、文書に関係して、わかりやすく解き明かされる歴史的な事実は実に面白く、読んでいて興味は尽きませんでした。

なかでも、隔世の感があるビートルズ来日当時の世相、遺言書に見られるシェイクスピアの人間味、タイタニック号のSOSから伝わってくる緊迫感、サイクス=ピコ協定によって中東に引かれた分断線に見られる西洋列強の傲慢さ、そして第二次大戦後のバルカン半島や中欧諸国の運命をチャーチルとスターリンの二人だけで、しかも一片のメモとそこに書かれているパーセンテージだけで決めてしまうという凄まじさ。これらは強く印象に残りました。

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(P94 シェイクスピアの遺言書)

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(P172 タイタニックのメッセージ)

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(P208 チャーチルの手書きメモ)

本書には、世界の歴史を別の角度から眺めているような新鮮さと面白さがあります。そして、教科書に書かれていることだけが歴史ではないことを改めて思いました。

読後感(面白かった)