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『ルポ 中国「潜入バイト」日記』を読みました

ルポ 中国「潜入バイト」日記(小学館新書)

2018年29冊目の読了は、『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(西谷 格/小学館新書 初版2018年4月3日)。書店で目にして手にとりました。

中国人観光客が増加し、観光地だけでなく街中でも中国人の姿を見かけるのは、日常的な光景になりました。しかし、日本と中国の関係、双方の国民感情は決して良好とはいえません。中国人の振る舞いに驚いたり、憤ったりすることもよくあります。一方で、気になる存在でありながら、中国人のことをよく知らないことも事実です。

本書は、フリージャーナリストで、2009年から2015年までは中国・上海で暮らしていた西谷さんが、中国や中国人をもっと深く知りたいと考え、自ら“潜入労働”したときのルポルタージュです。問題を深く掘り下げたレポートというよりは、軽妙な体験記という感じなのですが、西谷さんの体当たり取材で、中国人のありのままの姿が垣間見えてきます。

西谷さんが潜入したのは、中国で「上海の寿司屋でのバイト」、「反日ドラマの日本兵役」、「パクリ遊園地でのピエロ役」、「中国の婚活パーティへの参加」、「上海の高級ホストクラブのホスト」。帰国してからは「爆買いツアーのガイド」、「中国人留学生寮の管理人」。

西谷さんの中国語が堪能ということもありますが、まったく物怖じせずに現場に飛び込み、取材よりそこで働くことが目的であるかのように、いろいろ考えをめぐらせ馴染んでいく様子は驚くばかり。中国人の言動だけでなく、潜入を楽しんでいるような西谷さんの姿も印象的でした。

それぞれのエピソードを読むと、中国人が普段どんなことを考えているのか、日本人のことをどう思っているのか、その一端を知ることができます。

日本人からすると眉をひそめるようなこと、顰蹙を買うようなことでも、中国人は意に介さない。日本人が中国人を意識するほどには、中国人は日本人のことを意識していない(中国人も日本人のことを知らない)。反日ドラマは「水戸黄門」であり、日本人=お金持ちのイメージは完全に崩壊している。やっぱりそうかと思うことも、新しく知ったこと、驚いたことも数多くありました。

広大な国土とたくさんの人、繰り返される支配者の興亡、そんな中で生きてきた民族と、狭い島国で、みんな同じように生きてきた民族では、物の見方や考え方が違って当然です。

また、中国人がとかく言われる旅先のマナーや爆買いにしても、そんな遠くない昔、日本人も海外旅行ではマナーがなっていないと言われ、所構わずお土産を買い漁る姿は白い目で見られていました。一般の人に「著作権」の意識が高まってきたのも最近のことです。中国人のことを、今の日本人の視点だけで語るわけにはいかないでしょう。

ただそれでも、「ニュースなど興味がなく、意見を言うだけムダ。そんな他人のことより、自分自身のことを考えよう、という風潮が蔓延している。」「不正な手段で巧みに利益を得る人を肯定的に評価する向きもある。苦労してオリジナルを作るより、うまくパクる方が得策という風潮がある。」「下々の人間は常に、いかにして法の抜け穴を見つけるかに心血を注ぐ。」「一度仲良くなると情に厚いが、赤の他人には極めて冷淡。」といった話は、中国人全部にあてはまるわけではないとわかっていても、やはり強烈で、“違い”を思い知らされます。

西谷さんは、「中国人の仕事の進め方は大風呂敷を広げて、ダメなら修正を重ねる、細かな計画を立てて、着実にその通り進める日本人とは、やり方が違う」と指摘し、あとがきでは、「中国社会はすべてにおいて日本よりも“雑”で“いい加減”なのだが、それはよく言えば臨機応変さに富んだ柔軟な世の中とも言える。」と語っています。

あらゆるものがグローバルに、スピーディに動く時代、中国が軋轢をものともせず、ダイナミックな動きを見せるつける理由がわかるような気かしました。

読後感(面白かった)