えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『読書の価値』を読みました

読書の価値 (NHK出版新書 547)

2018年31冊目の読了は、『読書の価値』(森博嗣/NHK出版新書 初版2018年4月10日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、作家でかつては名古屋大学の助教授でもあった森さんが書いた、読書に関するエッセイです。読書論的な本の多くは、読書の効用を説いたり、本の読み方をアドバイスしたり、推奨する本を紹介したりするものですが、本書も本の帯に「人気作家が初めて明かす読書の極意」の文字があるように、本の選び方や読み方がテーマであることに間違いありません。

しかし本書では、森さんの幼い頃からの読書経験、読書(インプット)と“アウトプット”の関係について、さらには「読書の未来」としてこれからの出版業界のことなどについても語られていて、興味深く読みました。

森さんは、本選びのたった一つの原則は「自分で選ぶこと」だと語っています。読書論の本ではよく言われることですが、森さんは、その理由を、本は人と同じだという観点から説明しているのが新鮮で、なるほどと思わせます。

「どんな本もどんな人も、読んだり話を聞いたりしたら、感謝することが大事。」「人との出会い、本との出会いは奇跡的なもので、出会った人、出会った本を丁寧に扱い、得られるものを見つけようと積極的になった方がいい。」という言葉が出てきますが、まさに、人について言われる「一期一会」に通じるようです。

本が人と同じであれば、人間誰しも良いところや面白いところがあるのと同様に、どんな本もそれぞれ面白いということになり、「この世につまらない本などない」という森さんの言葉もよく理解できます。そう考えると、少し読んだだけで放っておくのは、もったいないことかもしれません。

また、「本を選ぶところから読書は始まっている。一度も開かなくても、本を買っただけで、その本を選んだだけで、読書体験をしている。」、「本の恩恵を享受するにはなんでもかんでも読んでみること。自分の勘を信じて、背表紙のタイトルだけで手に取ってみることが大事な姿勢」といった話もとても印象的で、読書を後押ししてくれます。

森さんは、本書の終盤で「印刷書籍は、いずれ注文生産になると思われる。」と語っています。電子書籍に馴染めず、装幀の面白さや紙の手触りがあってこそ「本」だと思っている者からするとあまり嬉しい話ではありません。

しかし、在庫や流通コストの問題が大きくなり、また電子書籍がさらに定着していけば、今すぐでないにしてもあり得ない話ではないでしょう。そのとき(もちろん自分はもう現役ではないはずですが)、印刷書籍の流通を前提としたビジネスモデルはどうなっているのか、少し気がかりです。

もっとも、印刷書籍、電子書籍といった形態に関係なく、とにかく本に親しむ人を増やすことが今の出版業界では何より大事なことは言うまでもありません。

読後感(よかった)