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『一発屋芸人列伝』を読みました

 一発屋芸人列伝

2018年41冊目の読了は,『一発屋芸人列伝』(山田ルイ53世/新潮社 初版2018年5月30日)。新聞の書評欄で本書のことを知り、手に取りました。

本書は、お笑いコンビ「髭男爵」のメンバーである山田ルイ53世さんが、“一発屋”と呼ばれているお笑い芸人を取材し、一発が上がるまでの道のりと、一発が上がりその火が消えてからの生き様を軽妙な筆致で描いたものです。

もともとは『新潮45』に連載されたものですが、記事が「第24回雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞したこともあって、各種メディアにも取り上げられ話題になっています。

本書に登場する一発屋芸人は、レイザーラモンHG、コウメ太夫、テツandトモ、ジョイマン、ムディー勝山と天津・木村、波田陽区、ハローケイスケ、とにかく明るい安村、キンタローそして髭男爵。テツandトモなどは今でもTVでよく見るので、果たして一発屋なのかと思ってしまいますが、いずれも“一世を風靡した”人たちばかりです。

「一発屋」という言葉には、人を揶揄する響きがあり、どことなく哀感も漂ってきます。ところが、本書の芸人達は今の境遇を嘆くでもなく、過去の栄光を再び追い求めるでもなく、毎日をしぶとく、たくましく、がんばって生きています。もちろん芸人ですから、売れれば本望でしょうが、気負いや変な色気は見当たりません。

山田ルイ53世さんは、そんな姿に突っ込みをいれながらも共感し、一発屋芸人達をリスペクトしているのですが、芸人達の苦労や努力を知ると、同じような気持ちになり、応援したくなってきました。

一方、本書を読むと芸能界の厳しさもよくわかります。確かに一発上げて、その後消耗品のように扱われるのは悲しいことです。しかし一発すら上げられず、消えていった数知れない芸人達からすれば、たとえ一発でも、0.5発でも、名前が残った人は羨望の的かもしれません。

それにしても、山田ルイ53世さんの文章は実に面白く、特に比喩は絶妙です。レイザーラモンHGは「一発屋界の添え木」、コウメ太夫のネタは違和感やノイズが付き物で「調律されていないピアノ」、テツandトモは「一発屋界のアダムandイブ」、その芸は「モンドセレクション金賞」、ジョイマンは二度揚げされた“からあげ”、波田陽区の九州への活動拠点移転は「一発屋界の働き方改革」など、まさに言い得て妙。とにかく明るい安村とアキラ100%を対比し「“安心感”の安村と“緊張感”のアキラ…全裸界の門を守る、阿形像と吽形像」には思わず笑ってしまいました。

『新潮45』の連載は2017年12月号で終ったようですが、『一発屋芸人』はまだたくさんいます。ぜひ続編を書いてほしいところですが、そのときは、「悲しいとき」の“いつもここから”、「餅つき」の“クールポコ”を取り上げてくれないかと願っています。

読後感(面白かった)