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『「在宅ホスピス」という仕組み』を読みました

「在宅ホスピス」という仕組み (新潮選書)

2018年53冊目の読了は、『「在宅ホスピス」という仕組み』(著 山崎章郎/新潮選書 初版2018年3月20日)。父の死と母の老いに接し、また自分も年齢を重ね、この種のテーマは身近なものになっています。

著者の山崎先生は、わが国における終末期医療の第一人者。著書の『病院で死ぬということ』は話題となってベストセラーになりました。

本書によれば、2025年、団塊の世代の人たちが75歳を超える頃、日本の年間死亡者数は153万人に増加。わが国は“多死社会”を迎えます。しかし、病院のベッド数が今後増加することは考えにくいため、病院以外の自宅や老人ホームなどに、55万人分の看取りの場を確保しないと、「死に場所難民」が出現するかもしれないそうです。

介護、認知症、独居など高齢化社会の問題はこれから厳しさを増すばかり。問題解決を目指し、現在「地域包括ケアシステム」といった取り組みが各地で行われていることを本書で知りましたが、死ぬ場所がないというのは深刻な事態に違いありません。

本書は、山崎先生が、この困難な状況を打開する方策として提唱する「在宅ホスピス(在宅緩和ケア)」について、その考え方を示したものです。

終末期医療の実態やエピソード、また初めて立ち上げたホスピス「聖ヨハネホスピス」と自身が関わった「ケアタウン小平」の成り立ちや概要、そして宮崎で始まった「ホームホスピス」の活動などを紹介しながら話は進みますが、「在宅ホスピス」の仕組みのことだけでなく、「緩和ケア」の本当の意味を知るうえで大切な「スピリチュアルペイン」「スピリチュアリティ」の話や、山崎先生が武蔵野美術大学で行った授業のエピソードも興味深く読みました。

住み慣れたところで、苦しむことなく死にたいと思っている人は多いはずですが、本書を読むと、その願いは簡単に叶うものではないことがわかります。

しかし、この「在宅ホスピス」は、「在宅で、最期まで自分らしく、平穏に、尊厳をもって生きる」ことを実現可能にするもの。まだ課題も多そうですが、医療関係者や行政が協力しあって、この仕組みが広く行われるようになってほしいと願わずにはいられません。

もっとも、「在宅で、最期まで自分らしく、平穏に、尊厳をもって生きる」ことを望むのであれば、どこで、どんな処置をして最期を迎えたいのか、あらかじめ表明しておくことが重要です。自分の意思を知っておいてもらわないと、救急車で病院に運ばれ、無意味な延命処置を施されて苦しむことになり、家族にも迷惑をかけかねません。

私くらいの年齢になったら、自分の最期はどうしたいのかをよく考え、それを家族に伝えておくというのが、大事な責任ということになりそうです。本書には、日本尊厳死協会の「リビング・ウイル」と「私の希望表明書」が掲載されていて、尊厳ある死を考えるうえで参考になります。

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(P20 日本尊厳死協会「リビング・ウイル」)

「聖ヨハネホスピス」のある聖ヨハネ会桜町病院(東京・小金井市)は、自宅から歩いて10分ほどの所にあり、「ケアタウン小平クリニック」も、そう遠くない場所にあります。だからというわけではないのですが、本書を読んで、自分が死ぬときは山崎先生のような方に看取ってもらいたいと、心の底から思いました。

読後感(考えさせられた)