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読んだ本と出来事あれこれ

『江戸東京の明治維新』を読みました

江戸東京の明治維新 (岩波新書)

2018年67冊目の読了は、『江戸東京の明治維新』(著 横山百合子/岩波新書 初版2018年8月21日)です。書店で目にして手に取りました。

明治維新により徳川幕藩体制は崩壊。日本の社会はあらゆる面で大変革のときを迎えます。変革を起した側は歴史の表舞台に登場しますが、変革を起された側は敗者として扱われ、名もなき人たちには光が当たることさえありません。

本書は、明治維新によって徳川幕府の御膝元であった江戸がどう変化したのか、そこで暮らしていた人々はどのような影響を受けたのか、歴史学者で国立歴史民俗博物館の教授である著者が、文献・資料などをもとに明らかにしたものです。

著者はまず、町人が運営していた行政施設「腰掛茶屋」や街並みの変遷を例にあげながら、新しい支配者が乗り込んできたことによって起きた江戸の変化を解き明かします。

大政奉還後、薩摩藩の江攪乱工作(浪人を使った辻斬り、強盗)で江戸が恐怖に陥ったこと、武家の流出で人口が激減したこと(100万人から67万人になった)、武家奉公人の失業や商い相手の消滅で江戸が大不況に見舞われたことなど初めて知りましたが、印象に残ったのは江戸の統治に腐心する新政府の動向。明治天皇の東幸が首都の選択(奠都)というより、江戸の人心を掌握することが大きな目的だったという指摘は興味を覚えました。

次に著者は、江戸に残った下級の旧幕臣、「家守(やもり)」・「床商人」といった町人、遊郭に身を置く遊女、そして彈左衛門支配下の賤民とされた人々をとりあげて、新政府が“社会の近代化”を目指すなかで、旧社会で彼らが果たしていた役割、持っていた権利、属していた身分が、リセットされていくプロセスと、その変化に何とか付いていこうとする人たちの姿を追っていきます。

学校の授業では、明治維新によって封建的身分制度(いわゆる士農工商)は廃止され「四民平等」になったと、“さらっと”と教わります。しかし、職業や権利と強く結びつき、生活の基盤であった身分制度の解体がすんなり進むはずはありません。実際は人々の様々な思いを飲み込み、軋轢を生みながら新しい社会が形成されていったという事実に、これまでの“安易”な認識が一変させられました。

明治維新は日本の近代化をもたらしたといわれますが、時代の大波に翻弄されながらも、必死で生き抜こうとする庶民の姿を見ると、それは歴史のほんの一部しか語っていないこと気づかされます。

読後感(面白かった)