えむと、メモランダム

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『紛争地の看護師』を読みました

紛争地の看護師

2018年68冊目の読了は、『紛争地の看護師』(著 白川優子/小学館 初版2018年7月11日)です。新聞の書評で知って手に取りました。

「国境なき医師団」は、紛争地などで医療・人道援助を行っている国際NGO。現在世界37カ所に事務局を設置し(日本に事務局が設置されたのは1992年)、2017年は約4万5千人の海外派遣スタッフ・現地スタッフが70ヵ国以上で活動したそうです。

著者の白川さんは、2010年に「国境なき医師団」に参加してから8年間にわたり、イラク、シリア、南スーダン、イエメン、パレスチナ・ガザ地区など17か所の紛争地で看護師として医療活動に従事。本書は、そのときの体験を自らの経歴を交えながら綴ったもので、医療現場の過酷な実態と紛争地で市民を襲う悲劇が、リアルに描かれています。

制服の可愛さで入った商業高校のごく普通の生徒だった白川さんは、クラスメートの何気ない言葉がきっかけとなって看護師を目指すことになり、定時制の看護学校へ進学。国家試験合格後、病院勤務をしていたときに、小さい頃から尊敬していた「国境なき医師団」がノーベル平和賞を受賞したことを知り、自分もそこで活動することを考えるようになります。

驚いたのはそこからの白川さんの行動です。最大の障害であった英語を習得するため、オーストラリアへ語学留学。オーストラリアの大学で“英語”で看護の猛勉強をして、オーストラリアの看護師資格まで取得します。葛藤はあったのでしょうが、安定した生活を捨てても、初志を貫こうとする姿には感心するばかりでした。

そして、何といっても衝撃を受けたのは紛争地の厳しい現実です。銃弾や空爆の脅威と常に隣り合わせ。気温が50度を超えても冷房はなく、遺体の流れる川の水を口にしなければならないほどの劣悪な環境。次々に運ばれてくる痛々しい負傷者と、限られた設備を使い、不眠不休で自分の身体を削りながら懸命に治療にあたるスタッフ。国境が命の境目になった少女やイスラエルの兵士にわざと撃たれるパレスチナの青年たち。まさに想像を絶する世界がありました。

自分でこの仕事を選び、それなりの覚悟を持って臨んでいる白川さんでさえ、気がつくと泣いていることが多くなったり、PTSDを発症したりするほどのストレスフルな毎日。私など働くどころか、そこに立つことさえできそうもありません。高邁な思想だけでなく、自分の心と身体を突き動かす“内なる力”がなければとても務まらないでしょう。

紛争地の実態に白川さんは怒り、悲しみ、時に無力感さえ覚えるときがありますが、決して希望を捨てることはありません。ただひたすら自分の役割を全うしようとする姿と、人々の痛みや苦しみを自分が代わって訴えていくという思いに、心が強く打たれました。

人間がいる限り、この世界から争いがなくなることはないかもしれません。それでも、いつか「国境なき医師団」の活動が終わる日が来ることを願ってやみません。

読後感(考えさせられた)